当世恋愛気質
権兵衛党
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「おーい、早よしーやー」
「待って! もうちょっと――きゃあ!?」
ドアの向こうから聞こえた『あらゆる物を巻き込んで人体の転倒する音』に、あたしは
深いため息をついたのだった。
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花見に行こうという提案がされたのは、暇な学生が集う日当たりのいい学生食堂の窓際。
その提案に即座に乗ったのはひとえにその参加者に守綱君がいたからだった。入学式で
一目あったその時からの一目ぼれ。今日までのおよそ一年間、ずっと狙っていたと言って
いい。ひょっとすると凄まじく遅い初恋かもしれない。
であるというのに、これまで一切全く完膚なきまでにこれっぽっちも進展も無かったの
は、不覚の極みというしかないのだけど。でも今度こそは。せめていい雰囲気に持って
いくとっかかりだけでも。
あと、タダ酒。
という訳で買出し場所取り備品調達等の役割を割り振り、今日が当日。いい場所を確保
できたら会費タダの交渉済み。
もちろん気合は場所取りにも愛の行方にも十分だ。
が、なにしろ場が花見だ。無闇に気合入りまくりで周りから浮きまくる様な服着飾って
どーする。引かれるのは目に見えてるし、そもそも普段のあたしがラフすぎてイメージが
崩れる。予算がそうそうある訳でもないし。むしろ空っケツ。
さりげに、あくまでさり気に普通に。むしろ飾り立てるよりもラフに無防備さを演出
する方向で。大丈夫、素材は悪くない――筈。たぶん、おそらく、希望的観測で。
という訳でどうにかコーディネートを済まし、後はビニールシートを抱えた我ら
場所取り部隊が出発するだけである。
……だけなのだが。
「もうええかー?」
「まだー!」
我が部隊の相棒が部屋から出てこないのであった。
だから、昨日のうちから寝坊するな荷物は先に用意しておけ、と言ったのに。
駐車場に面したちょっと流行の瀟洒な造りのアパートの一階、三番目の扉の前で待ち
ぼうけをくっているあたしである。
再びため息を吐きながら手持ち無沙汰を利用してコンパクトを開き、人目を気にしつつ
一応は身だしなみを点検。
我ながら自慢のスラリとした腰をアピールする、卸したてのディナージーンズ。この腰
から脚にかけてのヒップラインは密かに自慢だ。そこから伸びる足の先には、ヒールの
高すぎない地味めのパンプスをチョイス。赤いベルトで締めた腰から上は、あえて白い
シャツを採用。きっと、とあるCMで見た白いシャツにジーンズを履いた女優が颯爽と
していた所為だろう。演出の方はどうかと思うけどねアレ。流石にあそこまでのスタイル
じゃないが私だって捨てたものじゃ、と軽く腰を捻ってみたりする。……一部もの足りない
部位もあるのは断腸の思いだが、どうしようもないし。
可愛い系には向かない平均を上回る長身も、かっこいい女を演出するには有利。背中を
流れる黒髪を束ねてまとめ、眼鏡も目つきの悪さを抑える軽いハーフフレーム。
白いシャツの上にいつものジャケットを羽織って準備OK……とはいかないのが女の身の
面倒なところなのだが、しかしまた一面では女に産まれた楽しみというヤツでもあって。
うん、口紅はこの色で大正解。
しかし果たしてこの銀のイヤリングは吉と出るか、凶とでるか?
「……鈴子ちゃーん」
陽光の下での化粧のノリ具合をチェックしていると、おずおずという感じで待ちかねた
扉が開く。そしてあたしの名を呼ぶ声。
やれやれようやく……って、ちょっと待ちや!?
ワンアクションでコンパクトを仕舞い、折りたたんだシートはその場に投げ捨てて、
最速でひょこっと出てきた人影を扉の内に押し込む。後ろ手に扉を閉めて、ようやく
止めていた息を吐いた。
「優子、アンタなあ……!」
ビシッと部屋の主を指差す。
しかし当人はそれどころではなかった。
自室に押し戻された優子は、その小さな可愛い顔を動揺と困惑の色に染めていた。
大きく丸い目が切々と訴えかけるその絶望。
栗色の巻き毛をふるふる揺らしながら長い睫毛を濡らしてこちらを見上げ、身長は低い
のに見事に育った胸を押さえる手が、とある方向を指す。
「どうしよう鈴子ちゃん。これ、入らない」
その震える指先が指し示すのは、余すところなく散らかった部屋の片側ににデンと置か
れた堅牢な造りのベッドの上。
フリル付きの淡いベージュのフレアスカートが、無茶苦茶に積み重ねられた服山の頂上
を形成している。
「お気にだったのにぃ……やっぱり、昨日の焼肉が……」
……なるほど、先月は入った腰周りが入らなかったか。
当人、絶望に打ちひしがれているようだった。自業自得だが。
ふむ、指し示されたフレアスカートと、いま着ている明るい色のブラウスとセーターと
の組み合わせは悪くない。あたしならともかく、小さな身体の優子が着るとなれば
愛らしいと言ってもいいのではないかと思うけど。
けど、幾らショックだったからって。
「スカートもズボンも履かずに外出てきいなや」
「だ、だってぇ……」
部屋の扉が開いて、下がほんのりピンク色のショーツだけのが往来に出てきた日には、
こっちの顎が外れるかと思ったわ。
上がばっちりお洒落着になっているのが、また微妙な感がするなあ。
それはさておき、そもそも結果にそこまでショック受けるんだったら、焼肉なんか
行かねばいいだろうにと思うのだが。
……無理か。美味いもんな、肉。それも何のはずみだったか昨夜はタダ肉だったし。
食い意地の張った人間に喰うなと言うのは不可能だ。
とはいえ、それとこれとは別である。前日に焼肉を喰らったら公然猥褻してもいいという
事にはならない。
しかし、更にそれとこれとあれとは別なのである。このまま絨毯上に正座させて
公共意識についての説教など始めようものなら、受ける側の性能からしてまず間違いなく
不毛であり、花見の場所取りという使命を果たせず、守綱君の好感度がダウンする。
いい事など何一つない。
あと、ついでにタダ酒も飲み損ねる。
よってここはスルーしてちゃっちゃと現場に急行するに限るのだが……コレを置いて
いくと、衣装合わせに何時間かかるやら判らんしなあ。ともあれ、こっちで決めてやれば
時間の無駄は最小限。
ええと合わせるとして見た事のある柄は……と検索して、第一候補は。
「優子、昨日のスカートはどうしたんや?」
「焼肉の臭いがするから、洗濯機で回転中」
それはそうか。第一候補、撃沈。
続いて第二候補。
「先週のキュロットは? あのグレーの」
「お刺身のお醤油ひっくり返したから、まだクリーニング屋」
第二候補、墜落。
すると、後は……しかし、いい物ばっか喰ってんなこいつ。
「ほな、先々週履いてたデニム地のは?」
「あ――ある!」
バタバタと高そうな箪笥がひっくり返されて、三段目で見つかる第三候補。
わたわたと引っ張り出されたデニム地のスカートに脚が通されて――
――何故か、そのままぴたりと止まった。おや?
そのままこっちに泣き笑いに歪んだ顔をぎこちなく向けて。
「……やっぱりボタン止められないぃ……」
「あちゃー」
そうかその可能性もあったわなぁ。
同じサイズなら、あっちが入らなけりゃこっちも入るはずも無い。
頭痛を抑えつつ明日からダイエットに励まさせる事を心に誓って。
とりあえず妥協案を提出してみる事にする。
「……ほな、今日はジャージで行くか?」
これなら入らない事はない筈だが。
「いや!」
即座に否定された。
うん気持ちは判るんだけど。でもねぇ。
「ジャージで行く位なら死ぬ」
「と言うても、コレはどうにもならんで?」
勝手知ったる他人のニク。
コレという代名詞の指し示すモノをグニッと抓む。……おお、おお。こいつは予想以上
に育っとるわ。
自らの我ながらすっきりした腰まわりを思い返し、こんな場合だと言うのにちょっぴり
優越感を感じてしまうのは女に生まれた業というものなのか、それとも単にあたしの性格
が悪いのか。
……あ、優子泣きそう。
「ううう……鈴子ちゃんには分らないわよぅ!」
「わっ!?」
腰にいいタックルをくらい、もろともにベッドに倒れこんだ。弾みで服の山が崩壊し、
部屋中にばら撒かれる。
タックルから流れるような動きでマウントを取られる。こいつホンマに素人か?
そして目の前で不気味にわきわきと動かされる、小さな二つの掌。
「な、なにを……うひゃあ!?」
「うわーん! この細い腰をわたしによこせー!」
圧し掛かられて、べたべたと腰まわりを触られまくた。
「あ、ちょ、やめ! その手つきで触るのやめっ! 脱がすなぁ!」
「ううう、ホントに無駄ニクがないぃぃぃ恨めしいぃぃぃぃ……」
ジーンズからシャツが引き抜かれ、露出した腰からお臍まわりをなにやら怨念を込めて
ぺたぺたぺたぺたと触られまくってるんですがー!?
何とか引っぺがそうとするも執念で張り付く優子とあたしの力が拮抗し、容易には無理。
攻め手と受け手がなにやら柔道の攻防のようである。
熾烈な組み手争いの末に、優子の手が滑って――
――ムニッ
「…………」
「……おお、ここにもニクが無い……」
触れてはいけない逆鱗に触れた。
ピタリと時間が停止。そして――
――――1、2、3。
「ダァァァァ!」
「きゃあ!?」
カウント2.8。マウントから腹筋でひっくり返し、今度はあたしが上になる。
ふふふふふふふふふふよくも人が一番気にしていることを。
「す、鈴子ちゃん? 落ち着いて、ね?」
「ふふふふふふふ、ふふ、うふふふふふ」
先ほどとは打って変り、シーツの上で怯えた目を向ける優子。
その子羊ちゃんに狼の凶悪な視線を投げかけて。
「腰まわり? ああ、確かに自慢の逸品だとも。けど――」
「け、けど?」
「あたしはずっとそっちが欲しかったんだ。そぉの胸を寄越せぇぇぇっ!」
「きゃーっ!?」
ムニムニムニムニ。
ええ、思いっきり揉みましたとも。
長年の羨望と憧憬と怨念を込めてその胸揉みまくりましたとも。
途中から何か楽しくなってきたし。
「ここかっ? こうかっ? これでどうや!」
「やめ、止めて! ひあっ!? あ、あ……ふぁん」
くう、揉んでて気持ちいいのがまた腹ただしい。
指が沈む、タユンと揺れる、離せば元に戻る見事な柔らかさと弾力性、チクショウあたし
にコレついてないのがとんでもなく理不尽な気にしてくれる逸品め!
服の上からじゃ飽き足らず、ブラウスもブラジャーもずり上げて、途中からちょっと
優子の息遣いが微妙な変わり方してる気もしたけど、ともかくも気が済むまで揉みしだき
まくりましたとも。
「……あんたら、何してんねん」
「――はっ!?」
で、気がついたら。
遅いので様子を見に来たサークル仲間、華子に目撃されたりして。
あたしが、ベッドの上で、息も絶え絶えな、上半身はブラごとずり上げて下半身は
ショーツしか履いてない優子の胸を揉みまくってるところを。
「いやその、邪魔しちゃ悪いなとは思ったけど、ほら、時間になっても来ないから、ね?」
「ち、違うねん! 誤解やねんて、お願いあたしを信じてぇっ!?」
ぐったりとしてイマイチ語り難い息遣いをしている優子を放置し、真っ赤になりつつ
じりじりと後ずさる華子を説得するのにかなりの時間を要したと言う。
「ん……鈴子ちゃぁん」
「起きろ! 起きて、頼むから!」
なお、トロンとしてしまった優子を再起動させるには更に時間を要した。
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その後、優子のスカートの問題については明日からダイエットに励むこととし、今日の
所は丈夫なデニム地のスカートのボタン穴と対岸の生地を丈夫な安全ピンで留める事で
事無きを得た。それを外目に晒さないよう、ジャケットを脱がない事を言い含めてある。
しかし結局かなり遅れた為、場所取りに失敗。
まっとうに会費を支払うハメになったのであった。不覚。
さらばタダ酒、あたしはおまえを愛していたよ――
広げたビニールシートの上で掲げた紙コップから中身を喉に流し込み、タダ酒に別れを
告げる哀悼の酒を飲んでいるあたしである。
キャンパスからすぐ近くの地元でだけ有名な桜の名所。あまり広くない公園とはいえ
一面に咲き誇る桜の群れ。その中ではやや端の方になったが、それでもサークルの催す
花見には十分。そもそも飲む為の口実と言う向きもあり、二十人ばかりの男女がシートに
陣取っていた。
まああたしはといえば流石に気力も尽き果て、恋愛云々がどうこうという気分でもなく、
周囲に適当に合わせながら飲み続けているだけなのだが。それでもチラチラと目の端で、
シートの向こう側に見える可愛い顔を追ってしまう訳ですがね。男の子にしては小柄な
体格と、一見女の子の様にも見える童顔、大人しい性格が今日もあたしを惹きつけてやま
ない。ちんまりと座っているその可愛らしい姿、やっぱいいなぁ守綱君。……あ、隣が
華子のヤツだ。クソ、上手くやりおって山田華子の癖に。守綱君とは対照的に大柄な華子
は育った環境の所為か、やけに男らしく堂々と胡坐を掻いている。一歩間違えれば
ガテン系かと思うラフすぎるファッションセンスに、ショートの赤毛がよく似合っている。
雄々しすぎるが。
ちなみに名前はカコと読むのだが当然の様に渾名はハナコである。なお一つ違いの兄上
は山田太郎氏。
そんなどうでもいい豆知識はさておき。
ここは花見の席である。花見と言う事は、あたしの右手の紙コップを鑑みるまでもなく
酒がつきもので。
「きゃあっ! ちょっと、調子乗りすぎ!」
「えー? ままま、いいじゃんいいじゃんスキンシップスキンシップ」
という事は酔っ払いもつきものなのだった。
悲鳴に視線を向ければ、ちょうど胸を抑えた優子が後ずさるのと、酒に飲まれて気が
大きくなった馬鹿野郎がなれなれしくその胸にセクハラを敢行しようとしているのを見て
しまったりした。こういう酒の席なら何をしても許されると思ってる馬鹿は、社会の害虫
である。注意しよう。
虫けらはさておくとしても、ほって置く訳にもいかない。周囲も困惑しつつも手を出し
かねているようであるし。
「よっ、と」
行儀よく座っていたシートの隅から立ち上がり、ジーンズを揺らせてするすると近づく。
そして。
「へへへへ――ふがっ!?」
「お客さん、踊り子さんには手を触れないのがルールやで?」
二人の間にすっと割り込み、その鼻先にピッと立てた指一本を突きつけて。
そしてにやりと微笑って見せた。可能な限りにこやかな鉄壁営業スマイルで。
その隙に優子はさっとあたしの後ろに隠れてしまう。
「う……えと」
完璧な営業スマイルに気おされたか、野郎はたじたじと一歩後ろに下がる。
よし、このまま引き下がってくれたら――
――と思ったのもつかの間。
「そうよ、わたしの胸触っていいのは鈴子ちゃんだけなんだから!」
爆弾は後ろから投げられた。
「「………………は?」」
瞬間、ざわざわしていた宴席はシーンと静まり返り、目の前の馬鹿とあたしの、状況を
把握できてない事を示す間抜けな疑問符だけが風に流れたりする。あああ、集まった視線
が痛い。
しばし脳みそを空転させた後「優子、冗談言いなや」とお茶を濁そうと決めて、ぎこち
なく後ろを振りかえる――途中で、守綱君と華子が目に入ってしまった。
つまり。
「あ、秋音さん? どういう事なんだろう……」
と動転した様子であたしの苗字を口にする守綱君の独り言と。
「…………えと、あのね?」
と何やら顔を真っ赤に染めつつ何かを耳打ちしようとしている華子が、よりにもよって。
理解した瞬間あたしの顔から血の気が引いて、考えるよりも先に身体が動いていた。
「だ、ダメぇっ! 華子それだけはーっ!」
「どぉわっ!?」
他の誰でもない、守綱君にだけは知られる訳には。
目の前の野郎を突き飛ばし、シートの対角に向けて慌てて走る。
と、当然の様に間には色々と人やら酒瓶やら食い物やらが居るわけで。
当然のようにあたしは途中の席の輩に躓いた。
それでも勢いは止まらず、結果。
「きゃあああっ!?」
「うおおおおおおっ?」
華子を巻き込んで転倒した。思いっきり。
世界とか色々な物が廻ったり跳んだりした挙句にようやく停止して。
「――ッ!?」
気がついたら。
華子を押し倒した挙句に、唇が触れ合ってたりなんかしたりして。ついでに胸も
ばっちり触ってたりして。……でかいなコイツも。
至近で見詰めあいつつしばし二人してそのまま硬直。周囲も硬直。
「ちょっと何してんのよう!」
数秒後、その金切り声を皮切りに一瞬で顔面に血が昇り、慌てて互いに跳び離れる。
といってもその距離は一メートルもない。
いかん、何か言わないと。誤解される。
「あ……う」
心臓がバクバクと激しく鼓動を打ち、上手く声が出ない。
あああ、守綱君が唖然としてこっち見てる! 何か、何か早く!
うろたえているせいか全く声にならない。脳みそがパニックを起こしている。
なら自分の代わりに弁明してくれるのは、と華子に懇願を込めた視線を送る。
そのサインに気づいたのか、まだ真っ赤なままの華子が慌てて口を開いて。
「す、鈴! おまえが女しか愛せないのはいいけど、あたしはノン気だから、その……」
「あ――秋音さんって、やっぱりそうなんだ……」
違うううううううう、そうじゃないっ!!
というか守綱君、やっぱりってなにーっ!? いつの間にそんな話になってんのっ!?
いや確かに女子高だったし、可愛い子は嫌いじゃないし、一時期コンタクトにして見た
ら王子様とか言われて止めたんだけど! でも、それはあんまりだと思うの。
こ、こうなったら自分で釈明を、と深呼吸のように息を深く吸い込みながら立ち上がり。
「鈴子ちゃん、浮気はダメーっ!!」
「――ッ、ぐはっ、ゴホ!」
「またかーっ!?」
その瞬間を見計らったよーに後ろから飛んできた、人間ロケット優子の痛烈なタックル
が直撃。あたしは咳き込みながら転倒。腰に優子をぶらさげたまま華子の上に倒れこんで
その胸のエアバックに顔を埋める羽目になったのだった。クッ、これもまたいい胸だ。
「離れてーっ! 顔埋めるならわたしの胸ーっ!」
「暴れるな! かえって動けんだろうが!」
「――そうか。秋音さんってやっぱ女の子じゃないと――そっか」
どよどよという周囲からのざわめきを耳にしつつ、とりあえず理解した事がある。
……あたしの初恋、終わった。
「……もう、女の子に走っちゃおっかなー……」
虚しく呟いた、桜舞い散る春の日の出来事である。
<了>
後書き
このところすっかり一次創作系小話ばかりですが。
……好きなんです、三題話。
という訳で、今回はてぃーげるさんから『凸凹コンビ』『花見』『ジーンズ』のお題を
頂きましての執筆と相成りました。作中で凸凹コンビという単語は使っておりませんが、
まあそういう話なのでいいでしょう。
話の内容につきましては……もはや私の業というか、サガとしか言い様がありませんな。
「生きてるなら神様だって殺してみせる、このチェーンソーでな」というくらいサガ。
では、この辺で。
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