なお、冬木市の熱帯夜は続く見通し
権兵衛党
/
その日はとんでもなく暑かった。
日が沈んでからも暑くて暑くてたまらない、ジッとしていても寝苦しい熱帯夜。
台所で喉の渇きを潤した士郎が桜と出会ったのは、そんな夜の、動かない空気が熱に淀
んだ薄暗い廊下での事だった。
互いに風呂も済ませて汗を流したものの、纏った寝巻きがじっとりと肌に張り付くよう
な蒸し暑さの渦中。暗い廊下で向き合った桜は、自分と同じく暑さに参って水を求めてき
たのだろうか。
おやすみと声をかけ、熱気を掻き分けながらすれ違おうとして。
そうして士郎は桜に絡め取られた。
その時になって士郎は気づく。桜の部屋は建物の反対側の離れ。もし水を飲みに来たの
でなければ向かう先は一つしか――
そんな推測は正しく、そしてもう無意味だった。
「先輩」
掠れた声で囁きながら、名に合わせてか桜色の寝巻きに覆われた桜の腕が、汗ばんだ首
に絡みつく。服の上からでも判る柔らかな肢体が身体の前面に押し付けられ、士郎の心臓
が一際高い鼓動を打った。
その鼓動すら伝わってしまう二人の距離。
暑い暑い熱帯夜の熱気の中でも、布地を通しても伝わらない筈のない特別な身体の熱さ。
「さ、桜」
声を上げかけた士郎の口を一本だけ立てられた桜の指が、何も言わないでくださいと
そっと塞ぐ。訴えかけるように間近から上目遣いに見上げる瞳が潤んでいた。
切なさに濡れた桜の吐息が首にかかり、熱さに至近の距離を実感してうろたえる。
桜は何も言わない。士郎は何も言えない。薄暗い廊下の片隅に、暑い夏の夜、深い夜の
底に、ただ互いの押し殺した息遣いだけが積み重なっていく。
それでも意を決した士郎がぎこちなく、その手を桜の背に回そうとする。なのにその手
は桜自身の手に絡め取られた。ひんやりとしていた筈のその指はいつの間にか熱に侵され、
その熱さが、込められた微かな力が、士郎の指に直接昂ぶりを伝えてくる。
指が手に触れただけで、その感覚が酷く妖しく身体に響く。
「桜――?」
「うふふ、先輩だ……」
いつもならつられて笑ってしまうその微笑も今はどこか虚ろだ。むしろ熱に浮かされた
ようなその表情に妖しい艶のようなものを感じて、士郎は僅かな戸惑いを覚えた。
けれど桜の手に取られた士郎の手がぎゅっと引かれ、既にそんな些細な戸惑いなど既に
どうでもいい事を士郎に教える。風の通らない熱帯夜の底に、埋没する。
その指にかけられた僅かな力に導かれる先を理解して、士郎の思考は刹那の間停止した。
追い討ちのように、女の声が士郎を追い詰める。
「すみません、先輩。わたし、もう」
耳に桜の濡れた様な震える声が張り付く。
胸には桜の柔らかな肢体がしな垂れかかっている。
じっとりと汗ばんだ全身で、桜の重さと体温を感じている。
そして、士郎の指に触れる桜。桜の――亀裂。
ピクリと直に接した指先が震え、あげられた小さな声が士郎の耳朶を甘く掠める。
呼吸のリズムを乱した喉が水分を求め、士郎は意識せずにつばを飲みこんだ。
彼がその手にしているのは後輩の間桐桜。確かに見慣れた容貌と覚えのある温もりと、
汗の中に微かに香る桜の肌の匂い、なのだが。
それでも士郎はほんの一瞬、それが誰であるかが判らなくなる錯覚に陥る。
桜自身の手によってするりとショーツの中へと潜り込まされた、士郎の指先に直接に触
れる其処が。
まるで熟した桃の果実に指を突き入れた様にぬぷりと入り込んだ指先が甘い蜜にねっと
りと塗れ、ほのかに熱を帯びた周囲の肌よりもなお熱く潤った肉の合わせ目が、士郎の指
を誘う様に揺すられる。その感覚があまりにも生々しいオンナを感じさせて、士郎の知る
『間桐桜』とのズレが目の前に居るのが誰だか判らなくさせるのだ。
無論、そんな錯覚は眩暈のような一瞬の出来事。
すぐに士郎は自らにすがりつく桜の身体を抱きしめ、引き寄せた。
「あ……」
桜は嬉しそうに声を上げ、士郎の胸元に頭を埋める。
ふわりと立ち昇った髪の匂いが鼻腔を擽り、士郎はその背に回した手にギュッと力を込
めた。今、自分が抱いているのが、間桐桜である事を疑わない為に。
一瞬の眩暈がぶり返す。
士郎の片方の手の先が今も触れている其処は、桜のオンナそのものだ。
衛宮士郎という男の知る、間桐桜という後輩の女の子の形に出来た、綻び。桜がその中
に秘めていたオンナに触れてしまう、形の裂け目。
解っては、いる。
後輩であるのも、恋人であるのも、衛宮家の当番制の食事係であるのも、そして、女で
ある事もそっくり含めて全て間桐桜という女の子である事は。
それでも衛宮士郎はそこに触れる度、いつも僅かな戸惑いを覚える。
桜の其処は――熱く、士郎を求めるその部位は――
正に間桐桜という『形』にある、淫らな裂け目、というに相応しい。
/
夜の底に沈む熱気の中を泳ぐようにして、士郎は自室に戻った。
桜の手を引いたまま、黙って後ろ手に襖を閉める。
これで部屋の中には桜と士郎の二人きり。
つまり、何も変わらない。
照明を消した薄暗さも、真夏の夜の暑さも、熱に浮かされた頭も汗ばむ身体も、
ドクドクと熱い血液を流し続ける鼓動も、そして気温以上に熱く感じる相手の体温も何一
つ変わらない。慣れているはずの真夏の夜の熱気と湿度が、今ほど肺を焼く息苦しさを感
じさせた事は今までにない。何故か打ち上げられて鰓を痙攣させながら即死できず、
ゆるやかに酸素を失って死んでいく熱帯魚のイメージがよぎる。ついさっき水を飲んで来
たばかりであるというのに、既に喉がカラカラだからか。
何かに追われる焦燥感に士郎は無意識にグッと拳を握り締め、そしてぬらりと指先が濡
れていた事に気づいて慌てて濡れた拳を開く。
けれど士郎は開いた拳を再びギュッと握り直し、桜の方に向き直った。
手を繋いだまま士郎を見上げている桜の視線と士郎の視線が、複雑な思いと期待を交え
て絡み合う。真夏の事とて額に滲んでいた汗が、ぽたりと一滴、畳へと落ちていった。
幾度と無く身体を重ねてきた間柄、これからの行為に確認など必要ない。ただ行為があ
ればいい。
僅かに二人の距離が狭まると、桜の顎は微かに上を向く。その動きに後押しされて、
士郎は桜の頬にその手を添えた。
「――」
「――っ」
もう何度目になるのかも判らないほど繰り返したくちづけ。
ごく自然に閉じられた目蓋の下で、士郎は触れた唇の湿った柔らかさに意識を奪われた。
桜の頬に添えた手の甲を一筋の汗が流れ落ち、蒸発して大気に溶ける。頬にも首にも背中
にも、全身で感じる熱された空気の中でも、二人分の体温は周囲に微熱と甘ったるい何か
を蓄積していく。蒸し暑い夜の部屋の中、気温と湿度はますます高くなりそうな気配だった。
やがて士郎は酸欠に喘ぐ様に唇を離し、桜は恥ずかしげにけれど嬉しそうに俯く。
しかしそれも束の間。
士郎の視線を気にしてか上目遣いに伺いながら、桜は自らの寝巻きの一番上のボタンに
指をかける。
「先輩、あの……」
「あ、ああ」
生返事を返しながら桜の伺う視線を、見ないでくれと解釈するか脱がして欲しいと取る
かで刹那の間、悩む。そして一呼吸の四分の一だけ考えてから、桜に背を向けた。
だから、士郎は桜の唇の端に浮んだ小さな笑いには気づかなかったのだけれど。
背中から聞こえる衣擦れの音を聞きながら布団の上に座り込み、自らも汗に張り付く
寝巻き代わりのシャツを脱ぎ捨てる。汗を吸って重くなったシャツが畳に落ちていく。
意味も無くそれを睨みながら、背中からかけられる筈の声を待つ。
けれど士郎の待つ「もういいですよ」という声がかかる事は無く。
代わりに背後から伸ばされた両の腕が、士郎の裸の胸板にピタリと当てられる。
「うわっ?」
驚く士郎の耳に、小さな笑い声が響いた。
見れば桜が士郎の肩に顎を乗せ、頭をコツンと士郎に寄せてクスクスと笑っていた。
「ふふ。先輩、つかまえた」
嬉しげな声と共に、胸板に回された手がしっかりと士郎を抱擁する手に変わる。
大半はシャツに吸い取られていたとはいえ、室温に相応しい汗を滲ませた士郎のまだ若
さの残る胸板を、熱い細い指先がくすぐる様に梳る。
汗ばんだ士郎の背中で、ふくよかな胸が柔らかく形を変えていた。
間に何も挟まれてはいない桜の胸と背中の直に触れ合う感触が、士郎の中枢を刺激する。
即頭部にかかる桜の髪から漂う香が意識から離れない。意識から、離せない。抱擁から
逃げる事は出来ない。逃げようなんて、最初から思えない。
胸の筋をくすぐる桜の指に自らの手を重ねながら、士郎は自分が桜に捕らえられている
事を自覚する。何時からだろう。たぶん、おそらく、きっと、ずっと前から。
「ああ。桜に、つかまった」
重ねた手で自らをとらえる愛しい束縛を優しく引き剥がし、士郎はその白い手の甲に
そっとくちづける。
日本の夏の夜特有の湿度の高さが、その手にも薄く汗を滲ませている。
微かな塩分を感じ取り、士郎は小さく自らの唇を舌で舐めとった。
「先輩。汗、かいてますから――」
「そんなこと気にするな」
咄嗟に引こうとする桜の手を握り締めて押し留める。
汗なんて誰でもかくものだしと、自身、汗に濡れる士郎はむしろ桜の腕を手繰り寄せ、
舌を伸ばす。触れた先は肘の内側。そこから手首の方へと濡れた舌でれろんと舐め上げた。
ひゃっという桜の悲鳴を耳にしながら、士郎は余韻を堪能する。
絡まりあって士郎の鼻腔をくすぐる、桜の肌の匂いと汗の匂い、未だ残る風呂上りの
石鹸の匂い。舌先で感じた味と柔らかい肉の張り。何かを期待させる煽情的な、人肌の
体温。その全てが士郎を溺れさせる要因となる。
背中に、頭のすぐ横に、桜の身体がある。二人の身体の体温が汗と熱とを揮発させ室内
を満たしていく。更に熱く、熱く、澱みの底の、狂える暑い夜となるように。
桜が身体をほんの少し捻るだけで、息を乱すだけで、士郎の背中に押し付けられた柔ら
かく大きなふくらみは在り方を変え、滲み出た汗の為か位置を変える。そのとんでもない
柔らかさの中に時折触れる、固く尖った粒の様なモノに士郎は気づく。
否、気づかされた。桜が可能な限り上半身を密着させ、意図的にそれを士郎の背中に、
筋肉に、浮き出た肩甲骨に擦り付けている事に。
汗で欲情の証がヌルリとぬめる。
「ん……ふ、んん……先輩ぃ」
耳のすぐ横で聞こえる甘やかな喘ぎが耳から離れない。
士郎は自分のすぐ後ろを脳裏に描く。
布団の上に胡坐を掻いた上半身裸の自分の背中。
それに覆いかぶさるように脇から手を回す裸体の桜。
布団に両の膝をつき、その胸を目前の背中にこすり付けて喘いでいる。
暑く、空気の動かない真夏の夜の底で男の体温をその手に抱え、反らせた背中にも、
突き出されたお尻にも、じっとりと汗が浮んでいる――
それだけではない。
つい先ほど桜の裂け目に触れてしまった士郎には、切なそうに戦慄く桜の脚と欲情をた
たえた淫唇までありありと再現できた。
室温がまた、上がった気がした。
ズボンの下が痛いほどに窮屈に感じる。
未だ自らの指先が桜のそれに濡れている気がしていてもたっても居られず、士郎は闇雲
に目の前の桜の指に舌を這わす。念入りに、ねっとりと。濡れた舌が桜の人差し指を這い、
唾液塗れにしていく。
爪の先から始まって第二関節を通り、指の中ほどを淡く噛む。更に舌先だけを手繰らせ
ながら指の又をチロチロと舐め、次の指へ。
大事な物を捧げ持つようにかざした桜の指に、士郎はささやかな愛撫を加える。
それを、自らの指の上で士郎の舌が躍るのを目の前で見る桜の瞳が恍惚に蕩けるのに、
士郎は気づいただろうか。
「わたし、も――」
変わらず胸を擦り付けながら、桜は士郎の指を口に含む。
かつて幾度も自らの物をそれに見立てて自分を慰めた、士郎の指。先ほど自らに触れさ
せた、桜自身が濡らした指。士郎の汗と交じり合ったそれを、桜は口の中でしゃぶり、吸
う。ぬらぬらと、妖しく。くちゅくちゅと、淫らに。
「ふ、ぅン、ん……」
士郎の指の腹を舌先が撫で、擦り付けては蛇のように巻きついてくる。外周に沿って
クルリと舐め、先端を擽るようにトロリと撫で上げる。
それは舐めしゃぶる指を何に見立てているのか、士郎にはっきりと理解させる蠢き。
この中に突き入れればどれだけのものを与えてくれるのかを知らせる淫らな口技。
鼻を鳴らして指を吸う桜に、士郎の中に熾された淫火は否が応にも煽り立てられる。
――これが、指でなければ――
――何故――では、ないのだろう。
呼吸が、鼓動が狂っていく。
肋骨が張り裂けそうになるやるせなさ。
ジリジリと脊髄が焼け、灼熱のような焦燥感が体内に満ちていく。
篭る熱が、度を過ぎた暑さが士郎を支配する。背中に当る胸が、舐めしゃぶるその口が、
感じる重さと熱さが士郎を追い詰めていく。
いっそ今すぐ背後の桜を押し倒し、遮二無二ねじ込んでしまおうか。きっと桜は抵抗し
ない。身の内に潜むオスの本能が駆り立てる。
早く、早く、早く、今すぐ――
「――ッ」
それを辛うじて抑えこみ、士郎はもどかしさに身を捩る。
奥歯がギリと音を立て、空いていた手は無意識のうちに、すぐ横にあった桜の腿を掴み
しめていた。
小さな苦痛の呻きに我に返り、士郎は慌ててその手を開く。
艶やかな白い素脚に、士郎の手形が紅を描いていた。
「あ、あ、スマン」
「いえ、いいんです」
痛みよりも、その身体に触れられるだけで嬉しい。求められれば恍惚とする。士郎に
与えられた小さな苦痛は、より大きな歓喜と期待に呑み込まれる。
脚に赤く残るつかまれた痕をむしろ愛おしげに撫でながら、桜は艶然と微笑んだ。
口中に含んだままの士郎の愛しい指にヌラリと舌を這わせ、その背中にしなだれかかる。
肢体の重さをその背中に預け、その肩に頭の重さまで乗せてしまう。
そして桜は再び士郎の胸板に指先を遊ばせた。
くすくすと笑いながら浮ぶ玉の汗を拭うように、弾くように、惑わすように男の胸板を
くすぐり続ける。
けれど士郎はその意図にすぐに気づく。
桜の指はするすると伸びて鳩尾を伝い、鍛えられた腹筋を滑り落ちていく。
そうして桜の白い手がそこに辿り着く。
つい脱ぎ損ねたズボンの下の、士郎の、もう既に張り詰めた部分。
「ン……」
その存在を愛しげに撫でながら、桜は口中の士郎の指を甘く噛んで捕らえてその先端を
チロチロと舌で擽る。そしてクスクスといたずらで艶やかな微笑をもらした。
どうですか、先輩。ココもこの指と同じように――――きっと気持ちいいですよ?
桜がそう口にしたわけではないが、士郎には桜がそう言っているのがどうしようもなく
理解できてしまう。そして、自分のズボンの下のそれが期待にズクンと震えた事も。
それを了承と受け止めたのか、桜はその指で士郎のズボンのジッパーを摘まみ、ゆっく
りと引き下げていった。
士郎は動かない。
否、動けない。
故に、桜を止める者は何も無い。
「ふふ、凄く大きくなってますよ」
桜の手が士郎のズボンをまさぐり、その中の固いそれを引っ張り出す。
熱い空気と暗い照明の下に士郎自身が露にされる。飛び出たそれの裏側を愛おしげに、
人差し指で、まるで気ままな猫の喉を撫でるが如くに軽く指を上下させながら、桜は腕の
中の士郎にそっと、いいですよね、と囁いた。
もちろん否の返事が返るはずも無く、その問いかけに意味は無い。
士郎の身体を軸にして、桜の肢体がくるりと士郎の前へと回り込む。両の手を付いて
優雅に、士郎に身体をこすりつけながら身体を入れ替えるその姿はまるで、しなやかで
毛並みのいい、そして淫靡な四足の生き物の様。
否、顔を近づけて嬉しげにその匂いを嗅ぐ仕種は淫らな獣そのものだった。
その愉悦と期待に満ちた眼が士郎の視線と交わり、士郎は更に顔が熱くなるのを感じる。
桜という名を持つその生き物は、妖しく淫らな獣として振舞い、士郎にまとわりつく自分
を楽しんでいる。
「んん……」
痛いほどに充血し、膨れ上がった士郎のそれに身を低くして頬ずりし、離れ際にフゥと
吐息を吹きかける。そして熱いキスを交わす様に、その根元に唇を押し付けた。
桜からの表情を伺う視線を感じつつも、士郎にはとりつくろう余裕は無い。
まるでむきだしの神経を弄ばれているかのよう。ぞわぞわと途切れ途切れの快楽が腰の
奥から沸きあがる。些細な刺激を与えられるだけで士郎は与えられる感覚に目眩がする。
終わらない暑さの所為か、堪えている衝動の所為か、額から頬を伝って落ちる汗は一向に
止まらなかった。
「じゃあ、行きますよ?」
そんな士郎の姿に満足したのか、やがて桜は嬉しそうにけれど少しだけ頬を赤らめて。
声と共に、士郎のそれは桜の口の中に飲み込まれた。
「う、あ……」
漏れそうになった呻きを、士郎は辛うじて押し留める。
桜が士郎の股間に顔を埋めている。自らのそれが熱く、柔らかく、ぬるぬるとした桜の
口中に飲み込まれた瞬間から、我を失わないのが精一杯だ。それほど桜の口の中は士郎に
とってきもちいい。固く膨れ上がったそれに微かに当る歯の感触も、頤の裏側も、締め付
ける喉の奥までも。
固い剛直を喉の奥まで飲み込んだ桜は、ほとんど隙間の無く埋まった自らの口中で、
それでも可能な限り舌を動かす。先ほど士郎の指に対してしたように、剛直の中腹、裏側、
側面にチロチロと懸命に這わせていく。
「ん、凄くいいよ桜」
――先輩、気持ちいいですか?
上目遣いに見上げる視線にそんな感情を感じ取って、士郎は桜の頭をなでてやる。
額に汗を浮かべた桜の瞳が陶然と揺れ、桜は士郎に奉仕する愉悦にかすかに震える。
やがて桜は本来なら飲み込むには大きすぎる筈の士郎のそれを咥えたまま、ぎこちない
挿送を開始した。
途端、士郎は尻の下の布団をその手に握り締める事になる。そうでもしなければ、おか
しくなりそうだった。まるで身体のその部分が解けてなくなるようなありえないイメージ
と、確かに存在するそれに刻み込まれる淫らな戯れ。
二人が昂ぶるにつれて逃げ場のない蒸し暑さはより一層酷くなる。空気が甘く、熱く、
淫靡に、濃密になっていくような錯覚を覚える。風の止まった室内に、桜が髪を振り乱し
て士郎のモノをねぶる音だけが奇妙に響いていた。
舌が、顎の内側が、口中の粘膜が士郎のこれ以上は無いほどに勃起したペニスに擦れ
合って、削るように神経を撫でていく。微妙で微細な蠢きでぬらぬらと裏側を梳る桜の舌
は感覚器ではなく、まるで元からこの為に存在したかのように悦楽の曲を奏でている。
熱くはち切れそうな自身のモノが桜の淫戯に翻弄されるのを、士郎は辛うじて自分を
保って堪えていた。
汗とオンナの匂いに塗りつぶされる士郎の部屋。
耳に届くのはジュル、ジュル、という桜が士郎のモノをねぶる音だけ。
元から何も無い部屋の中は薄暗く、ほとんど何も知覚できない。
その中にあって、目の前の桜の肢体だけが士郎の視界と意識を占有している。
座り込んだ士郎の身体の下半身に顔を埋め、一心に淫らな奉仕を続ける桜。その髪と
細い優美な肩が揺れている。汗の滲む逸らされた背中とくびれた腰が悩ましい。
そして、高く突き上げられた桜の尻が士郎の眼を奪った。頭を動かすのにつれ、僅かに
振られるその部分が、眼に酷く艶めかしく映って止まなかった。
できれば、自分がもう一人居れば、この光景を桜の向こう側から眺めてみたいほど。
「ん……む? むぇ?」
不意に腰を上げた士郎に、バランスを崩しかけた桜は慌ててその腰にしがみついた。
自分の腰に両の腕をまわして抱きつく桜を安心させる為、ポンとその手を頭に置く。
そして撫でてやりながら、膝立ちになった士郎は憑かれたように手を伸ばした。突き出さ
れた桜の白くて丸いお尻へと。
「ン! ……んクぅ、ン……」
予期しなかった士郎の手の感触を尻に感じ、反射的にのけ反る背中。
けれど驚きの呻きはすぐに甘え、促す声へと変わっていく。桜にとって士郎の手は常に、
触れていたい触れられたい撫でられたい押し付けていたい抱いていたい抱かれたいメチャ
クチャに翻弄して欲しい。だから拒む理由は何も無い。
変わらず士郎のモノをしゃぶり続けながら、巻きつかせながら、むしろ当てられた士郎
の手の平を余すところ無く感じられるように桜は意識を懸命にお尻に集中した。
士郎がほんの少し力を入れるとその指は桜の尻に沈み込む。
大き目のお尻が、その張りと柔らかさをその指先につたえてくる。その感触に知らず
ゴクリと唾を飲み込み、士郎はその肉を撫で回す。男にそうさせるほどに、桜の尻は淫ら
で艶めかしい。
「はぅ、ン……ぁ」
士郎の両の手に力がこもる度、桜は甘く鼻を鳴らす。
可愛いその声を聞きたくて、士郎はますますその肉を責め立てる。
ふと、士郎は自分が何時に無く興奮している事に気づいた。四つんばいで腰にしがみつ
いた桜に自らのモノをしゃぶられながら、その背中を超えてお尻に両の手を付き、その肉
を愛撫している。桜の口を性器と考えれば、後背位と言えない事も無いのだけれど。
幾度となく身体を重ねてきた中で互いの秘所を慰めあった経験もあるにはある。
けれど俗に69と称される体位とは違うこの位置関係が、士郎には酷く新鮮に思えてな
らなかった。まるで、二人とも獣になってしまったみたいに感じて。
士郎の興奮に応じてか桜の舌使いも激しくなり、士郎自身をねぶりたてる。
たまらず桜の尻肉を握り締め、夢中で左右に割りさくと士郎の指に桜の後ろのすぼまり
が触れる。
瞬間、桜の身体は得体の知れない感覚に戦慄いた。
期待か恐れか。それすらも判らないまま桜は士郎の腰にしがみつき、身を奔る何かに押
し流されまいとする。無意識のうちに高く上げられた腰がくねり、扇情的な舞を描く。桜
の意図とは裏腹に、士郎にはまるで其処に誘われているようにすら感じられた。
自らの指を舐めて濡らし、士郎は腰骨から指を這わせた末に桜の尻の谷間にスルリと滑
らせる。びくり、と不安げに震える桜を労わりつつも士郎は其処を弄りたい衝動を止めら
れなかった。
「ひっ……」
そっと慎重に指に力を入れると、桜のそこはギュッとすぼまってその指を拒絶する。
けれど、刺激されて震える桜の身体は決して嫌がってはいない事を士郎は確信していた。
――慣れてないから、戸惑っているだけ。きっとそうだ。
無理な事はしないようにしつつも、執拗にその部位を撫で回す。
幾度も幾度も愛しぬいてきた肢体にまだ未踏破の部位がある事に、士郎はほのかな征服
欲を駆り立てられる。
抑えきれない欲求が、声になる。
「桜、ここが、いいのか?」
「ち、違います!」
士郎に聞かれて、桜はあわてて首を横に振る。
こんな所で感じてしまうなんて先輩に知られたくないと、桜は否定の言葉を口にした。
その部位に触れられて、少しだけ理解してしまった愉悦が羞恥心を更に煽る。きっと何と
口で否定しようとも、士郎には知られてしまった事がわかるから。
動きで口中から抜けた士郎自身に額を押し当てて真っ赤になった顔を隠す桜は、ただ
ひたすらに違います、違うんです先輩、と繰り返していた。羞恥に突き動かされるばかり
で自分が何を否定しているのか、半分もう見失っている。
一方、桜自身が塗した唾液に濡れた固くなったモノを、その額と髪のこれまた奇妙な
感触にこすり付けられた士郎は、それを堪えつつ沸きあがる衝動にも耐えていた。
確信がある。
このまま自分がさせて欲しいと願い続ければ、きっと桜は許してくれる。躊躇いつつ
恥らいつつ自らのお尻を捧げてくれる、と。
けれど。
だからこそ無理強いしたくはなかった。
其処に未練を感じつつも士郎は安心させる為に桜の頭を撫で、うやむやにその話を終わ
らせる。
「――今度、試してみような?」
もっとも、耳元でそうつけ加える程度の事はしたけれど。
いつか自分からそこをねだる様にしてみたい、などという密かな欲望をひとまずは収め
た。
羞恥の所為か玉の汗を浮かべたまま、うなじまで真っ赤になった桜の背中を見やりつつ、
士郎は改めて指を伸ばす。
今度はお尻から更に先。一番初めに触れた、桜の裂け目――
「あ、ハ……」
触れるだけで桜が嬉しそうに声をあげ、士郎の指がヌルリと飲み込まれそうになる。桜
のオンナそのものである淫らな裂け目へと。
最初に感じたのは熱さとうねり。
そしてぶり返す眩暈。
けれどそれは錯覚でしかない。
眩暈自体がそもそも錯覚で、今の桜には士郎の感じていたズレが無い。
それは桜が変わったのではなく士郎が、今の自分の衛宮士郎という形が崩れてただ剥き
出しののオトコであるからかもしれない、と漠然と彼は思う。オスとメス、一つがいの
オトコとオンナであるならばズレの生じるはずは無い。ただ狂おしく求め合い、欲望の
ままに貪りあうだけ。
何となく安堵しつつ、士郎は目前の欲求に立ち返る。
息が荒い。鼓動が激しい。全身が、熱くて熱くてたまらない。肝心のところに触れなが
ら、躊躇している必要は何も無い。むしろ桜も待ちかねているに違いない。
触れているだけで触れた指が桜の疼きに侵され、自分まで耐えられなくなる。
故に士郎は自らの指を、桜の淫裂へとズブリと押し込んだ。
「ふ……クゥ……ぅぅん!」
肉の合わせ目に士郎の指をねじ入れられるのを感じながら、桜はあまくあまく啼く。
奥へと誘うように逃れられないように自分の中が蠢いて、咥え込んだ指を締め付けてい
る。入れられた拍子にはしたない程に溢れた蜜が、零れて脚を伝って落ちるのを感じた。
――先輩。先輩の、指――
侵入してくる指がやわやわと中の襞を掻き、桜は喜悦に包まれた。これだけでもう、
軽く達してしまいそうになる。
そして、桜を蕩かすその指が前後にスライドを開始した。
「アフ、ふぁ、あぁン先輩、先輩ぃ……」
溢れ出す愛液に塗れた指を懸命に食い締めながら、桜は床に着いた両手両足を突っ張ら
せる。無意識にお尻が動いている事に桜は気づいていたかどうか。
もっと奥まで、もっともっと奥まで、と自らの中まで肉襞の隅々まで士郎に把握される
悦楽に酔いしれる。
そして、ふと目前のモノが目に入った。
先ほどまで自らが咥えていた、士郎の剛直。これ以上無いほどに大きくなり、硬そうな、
自分の唾液に塗れてベトベトで、僅かな光を反射しててらてらと光る士郎のそれが桜の
意識を捕らえて奪う。
――ああ、先輩も気持ちよくして、あげなきゃ――
身体の奥から込み上げる熱に浮かされながら、桜はオトコの匂いを振りまいているそれ
に鼻先を押し付けた。
「――ッ」
漏れそうになった声を噛み締めて殺し、士郎は視界を真下に向ける。
位置関係の所為で良くは見えないが白くて丸い淫らな獣が、桜が、唾液に汚れるのも構
わず士郎のモノに顔を擦り付けていた。
鼻も頬も額も髪も構わず擦りつけて、クスクスと微笑む声が耳に届く。
今、桜の綺麗な顔を、ベトベトの自分自身が汚し、先走りをもろともに擦り付けている。
それだけで士郎は脊髄に更なる衝動と欲望が満ちていくのを感じた。
湧き上がる、抑えきれない乱暴な衝動に士郎は少しだけ腰を引き、それから恐らく桜の
口があるだろう辺りめがけて押し付けた。
「ふぁい、先輩……」
形のいい唇にその先端を押し付けられた桜は、押し付ける力に逆らわず、むしろ嬉々と
して大きなそれを口中に迎え入れる。ニチャリという粘つく水音と共に、士郎は再び桜の
口に飲み込まれた。
舌が硬いそれに唾液を丹念に塗し、先走りを啜り舐め取って絡みつく。
桜の口という淫らな性器によって与えられる悦楽に耐えながら、士郎は夢中で自分も指
を動かした。
士郎の目に映るのは自らの股間に纏わり付く桜の揺れる髪と白い肩、そこから延びる
くねる背中。自らの指に合わせて淫らに揺すられる腰と高く上げられたお尻。むっちりと
した腿の内側を伝い落ちるねっとりとした愛蜜。放り出された足の先で時折指がギュッと
曲げられるのは堪えているからだろうか。
その全てがオトコを掻きたてて止まない、士郎を狂わせて止まらないオンナそのものの
間桐桜の艶姿。口と淫唇の二つの箇所で桜を突き刺しながら、士郎は後戻りの出来ない所
へのぼり詰めて行く。
そしてそれは桜も同じだった。
求めて止まない衛宮士郎の勃起したペニスを頬張りながら、歓喜を与えてくれる秘所を
弄ぶ指の動きに身を委ねながら、行き着く先がもう間近い事を感じている。口も秘裂も
士郎に弄られる事に悦んでいて、これならお尻も――でもよかったかも、などとはしたな
い妄想に身をくねらせる。
窓の外では月が出たのか、部屋は僅かに明るくなる。
しかし白光も二人を我に返らせる事は出来ず、お互いの愉悦に浸らせるだけ。
暑い暑い部屋には二人の熱い息遣いと溢れ出す液を掻き混ぜる水音だけが響いている。
布団には流れる汗とそれ以外の液体が落ちて染みを作り、すぐに蒸発して乾いていく。
空気はより濃密に。夜はなお深く。暑さはますます猛り、人を駆り立てていく。
「う……くっ」
限界が近くなった士郎は無意識に桜の頭に手を置き、それからその髪を撫でた。
その優しい愛撫に眼を細めながらも、桜は士郎の衝動を理解する。
そして自ら頭を動かす事を止めた。
「いいでフせんぱい、もっと乱暴でも」
口に咥え込んだままの所為でくぐもっていたけれど、士郎には桜の声がはっきりと聞こ
えた。そして、それに従うしかない自らの昂ぶりにも気がついていた。
「――スマン」
一言謝って、士郎は桜の喉奥に自らの物を打ち付ける。
激しく自らの口腔を抉られて、桜はそれでも士郎のものを感じ取ろうと眼を閉じる。
余人なら知らず、士郎の快感に染まった顔を見るのは桜にとって至福に等しい。きっと
今もそんな顔をしているのだろうと思うだけで、桜は更に肢体と胸が疼くのを止められな
い。代償のつもりか無意識か士郎の指使いも激しさを増し、桜の愛蜜が腿肉をトロリトロ
リと伝っていった。
自らの脚を流れる濃密な体液の熱さを、愉悦の証を感じながら、それでも桜ははしたな
く貪欲に更なる歓喜を求めてしまう。士郎の指を、手を、身体を、剛直を――
「ンん……」
「桜?」
伸ばされた桜の手が桜の蜜に塗れた士郎の指を、そっと抑える。
そして、いぶかる士郎の指を自らに招きいれた。
人差し指は元の通りに桜の中へ。中指は淫唇の合わせ目にある、小さな真珠へと。
「はぅ、くぅんっ――ぅあっ――ぁ! んくっ!」
士郎がその存在を指先に感じると同時に、桜の喉から押し殺せない声が漏れた。
……自分から、ここをおねだりしてしまうなんて……
自らの漏れる声に惑い、必死に声を抑えながら、桜は与えられる快楽と自分のはしたな
さ淫蕩さに真っ赤になる。それでも桜の歓喜を聞いてしまった士郎の指は止まらない。桜
の中を苛みながら、もう一度愛しいオンナに可愛い声をあげさせようと、肉の芽を執拗に
転がしにかかる。
「ひっ――ダメ、先輩、そんな強く――」
制止にも関わらず士郎はもう止まれない。
ぐちゃぐちゃになった女を、オンナそのものを悦ばす。
桜の淫裂とぷっくりと膨らんだ肉豆を同時に嬲り続けて愉悦する。その手に捧げられた
秘すべき柔肉を蹂躪する事以外考えられなくなる。そして桜も何時しかその悦楽を受け止
め、髪を振り乱しながら肢体を戦慄かせる事に没頭する。
昂ぶりに応じてか桜の口中の士郎自身もますます猛り、激しく喉奥を突いていた。
桜はその突き上げに懸命に応え、自らの喉突く剛直を舐め啜る。
先輩――先輩――が――わたしを――
打ち付けられることに、求められる事に、桜は噎び泣くほどの愛しさを感じる。
自らが昇り果てる予兆、それを感じながら最も奥まで飲み込もうと士郎の腰にすがりつ
いた。
両腕にグッと力が込められ、果てる寸前の抱擁が士郎の腰を抱き寄せる。
「うっわ――桜、サクラッ――」
限界に達し、決壊するのを自覚した士郎は桜の頭をぐっと自らに押し付ける。
そのまま一呼吸の間もおかず、白濁はぶちまけられた。
二度三度、四度、五度、歓喜に果てる桜の身体はそれを余さず受け止め、打ち震える。
反り返った背中をひきつらせ、自らがオトコの指を痛いほどに食い閉めているのだけは
知覚していた。
真っ白に染まる意識を、真っ白な精液が埋めていった。
すぐは声を出す事もできなかった。
空気に酸素が足りないような気さえ感じていた。
激しい咽の渇きを自覚しながら、士郎は未だ激しく鼓動する胸を抑え、ただ呼吸を整え
る事に集中する。すぐに酸素が身体中に行き渡る事だろう。
ほんの少し、意識は鮮明さを取り戻す。
けれど、汗は止まらない。熱さは終わらない。士郎の中の熱望が、欲望が、渇望が、
これだけでは鎮まれない。
どんなに息を正してみたところでそれは次への小休止でしかない事は、士郎自身が一番
良く知っていた。
「んふ……凄く、濃い……」
それを知ってか知らずか、桜は飲みきれなかった士郎の白濁を自らの両手の平に吐き出
し、そして改めて啜り始める。
嬉しげに舌を突き出してはぺちゃり、ぺちゃり、と白濁をの口の中に舐め取っていく。
更に口中で舌に転がし、味わいながら嚥下する。咽に引っかかるそれを飲み下し終えて、
桜は再び舌を伸ばした。
その痴態が士郎の眼にどう映るか、彼女は理解していただろうか。いとも容易く、士郎
の獣を再び揺り動かしてしまった事を。
しばらくして全ての精液を飲み干した桜は、ふと気配を感じて顔を上げた。
「あ――」
飲み干したばかりのその唇を奪われる。
激しく、熱く、長いくちづけ。
つい今の今まで口中にあった士郎自身のモノが脳裏をよぎる。桜は少しだけ応じる事に
躊躇を覚える。けれどそれもすぐに薄れ、顎を上向けられるに任せていく。
僅かに唇を開くと、すかさず士郎の舌がこじ開けた。
侵入した舌に沿って流し込まれる唾液を、ゴクリゴクリと従順に飲み干していく。
時間の感覚をなくす様なキスの後で、桜はゆっくりと幸せな息をついた。
長いキスの後の、甘やかな余韻。ぼんやりと口中に残る唾液を味わう。
ジンジンと疼く肢体と、胸中の甘ったるい想いが桜の思考を痺れさせる。士郎を悦ばせ
る為なら、求められればどんな事だってしてしまいそうな自分に満足する。
――先輩の為なら、何だってしますから――だから、何でも――
士郎と自分の唾液が混じりあう、そんな事にささやかな幸福を感じながら、桜は士郎の
胸板にその身を委ねた。
横ずわりの裸体が士郎にもたれかかってくる。汗に濡れた胸をくすぐる髪、そして当て
られた頭の重さと肢体の柔らかさを、士郎は両手でそっと掻き抱く。両手の中にすっぽり
と納まってフフと楽しげに微笑う桜の体温を実感する。
さっき士郎をその腕の中につかまえた時、桜もこの愛しさを感じたのだろうかと士郎は
腕の中の女の胸中を模索する。否、そんな必要な毛頭ない。抱いた両の手に伝わる桜の
心音が、そっと重ねられた桜の掌のぬくもりが、ささやかな想いを物語っていた。
桜のおとがいをそっと持ち上げ、もう一度その艶やかな唇にキスをする。今度は触れあ
うだけの軽い、けれど優しいキス。
「ン……」
桜とのキスを幾度と無く繰り返し、繰り返し、また繰り返す。
想いに行為が追いつかない。このキスはきっと、その空隙を埋めるためのもの。
想いが募る、甘く囁く、想いが募る、想いが募る。だから行為はその後を追いかけて
どこまでも絶え間なくキスを求めさせる。
キスが桜の肢体を伝っていく。
唇から首筋へ、首から鎖骨へ。鎖骨からさらに下へ――
士郎の為すがままになりながら桜は士郎の首に柔らかく手を回し、与えられる幸福感に
そっと眼を閉じた。
キスの雨がふくよかな胸に与えられると、張りのあるふくらみが柔らかくたわむ。その
先端を甘く噛むと、桜から切れ切れの熱い喘ぎが漏れ出でる。
その声がもっと聞きたくて、士郎はその突起を吸い上げる。薄く汗の乗った桜の胸が、
大きくはずむ。
「ふあっ……」
士郎の口が与えてくれる悦楽に桜は声を上げた。
自らの胸を士郎がしゃぶり、赤ん坊のように吸っている。その事実が桜の女と本能を満
たしていく。少しでも士郎を感じたくて研ぎ澄まされた神経が胸の先端に集中する。ジン
ジンと痺れるような感覚が思考を遮断し、快楽だけが増幅する。
どうですか先輩、わたしの胸は――
そこにだけは密かな自信を持っている桜は士郎が一心にむしゃぶりつく姿にゾクゾクと
堪らない愉悦を感じ、愛しげにその光景を眺め続けていた。やがて士郎が口を離した時は、
僅かな寂しさを感じたほど。
士郎の瞳にはほぼ視界の全てを埋める桜のふくらみだけが映っていた。誇らしげに晒さ
れた桜の乳房は丸い曲線を描き、誘惑の香をふんだんに振りまいている。先端にある二つ
の果芯は桜の昂ぶりを映してか淡く朱に色づいていて、桜が息をするたびに微かに揺れる
それの片方は士郎の唾液に濡れ、ぬらぬらと妖しい光沢を帯びて士郎のオトコを煽ってい
た。
衝動に突き動かされて、士郎はもう片方のふくらみへと顔を埋める。この世で最も貴重
な柔らかさの中にその中心を歯で捕らえ、チロチロと舌で嬲っては吸い上げる。その愛撫
に応じて、桜は甘い歓喜の鳴き声を上げた。
ほんの少しでも士郎との距離を近づけたくて、夢中でギュッと士郎の頭を掻き抱いく。
「む、ウっ!?」
桜の胸に押し付けられて、士郎は危うく肉の海に溺れ死にそうになる。
どこまでも柔らかく、けれど弾力をもってはずむふくらみに呼吸を妨げられる。
このまま窒息したらきっと世界一幸福な窒息死だろうなぁ、などと馬鹿な考えに囚われ
つつもどうにか鼻で肉を掻き分け、自らの気道を確保した。
「あ、す、すみません先輩っ」
「いや、いい」
慌てて手を解こうとする桜を止め、士郎は自ら桜の胸に顔を埋めて眼を閉じる。
迷った末に今度は押し付けすぎないように慎重に、桜は男の頭を胸の中へと抱いた。
部屋の暑さに熱を帯びた肌が、フカッと士郎の両の頬を受け止める。深い谷間の底を
一筋の汗が流れ、お腹へと滑り落ちていく。
肺に流れ込む空気は桜色に染まり、士郎を一色に染めていく。
桜色に染まりつつある肌ざわりと、鼻腔をくすぐる桜の匂い。女の体温とすぐ間近に
感じる鼓動が愛しさを募らせる。
湧き上がる想いのままに士郎は目前の白い肌にくちづけ、そのまま力強く吸い上げた。
「んン……」
柔らかい肌を強く吸われて、桜の眉は悩ましげに顰められる。
そして僅かな時間の後で、白い肌には紅い痕が残った。うっすらと桃色に染まった胸の
谷間の、もっともっと紅い唇痕。士郎が桜につけた己のシルシ。
その白の中の朱を二つの視線が陶然と見詰めていた。
「ふふ。痕、ついちゃいました」
「ああ、つけた」
獣が己の縄張りを主張する様に、桜に付けた士郎の痕。
桜はその唇痕を愛しげに押さえ、そっと眼を閉じる。そこに士郎を感じ取ろうとするか
のように。その様がとても幸せそうで面映く、士郎は再びその唇を桜の肌に押し付けた。
士郎は唇痕を増やしていく。
胸の谷間に。
鳩尾の上に。
お臍の横に。
点々と白を染める朱が増える度に、桜は陶然と肢体をくねらせた。
部位が下に下るにつれて桜の肢体は反り返り、やがて布団の上に横たわる。その身体を
滑り落ちるように士郎は朱をつけていく。
「ああ……ん、ふン」
そのくびれた腰に両手を回して下腹部に朱を付けると、桜はくすぐったそうに身を捩る。
もう士郎の顎の先は桜の淡い下草にくすぐられているというそんな場所。
皮膚と薄い肉の下には男にはない、女特有の子を育む為の仕組みが存在する部位。
直接には触れられないその真上に士郎は己の印を残す。強く、熱く、その奥まで刻み込
むように。その想いは訳もなく桜に伝わり、桜は自らの奥の奥に直接くちづけられる錯覚
にたゆたい、自らが蜜に濡れるのを知覚していた。
「――桜」
「はい……」
促されるままに、桜はおずおずと両の脚を開く。
夜の帳の影とはいえ、間近な士郎の目までは誤魔化せない。トロトロと愛蜜に濡れた
秘唇が士郎の眼を捕らえる。
――ああ、見られてる……
士郎の視線が自分の淫裂を覗き込むのを知って、桜は悶えるような恥ずかしさとどうし
ようもない疼きを止められず、真っ赤になった自分の顔を手で抑えた。
顔が火照っているのか抑えた手が熱いのか、それすらもよく判らない。全て暑過ぎる
室温の所為にしてしまいたい。けれどこの熱が自らの内側から来ていることだけは、
誤魔化しようもなかった。桜の中の疼きが、男を求める女の性が、男の視線を感じてめく
るめく。
恥ずかしくて、そしてそれ以上に士郎の反応が気になって、桜は顔を隠した指の間から
そっと士郎の表情を伺う。
士郎は何も口にしない。ただ食い入る様に桜の裂け目を見詰めていた。
ただ、ただ、見られていることに耐えられず、桜は無意識に腰を後ろへずり下がろうと
する。その桜の脚を士郎は抑え、制止した。
弓道部で鍛えている所為かむちっとした印象のわりに贅肉の薄い脚を手で抑えられ、桜
はどうしようかと戸惑う。
「あ、あの、先輩……」
ついに耐え切れず、桜は少しだけ責める様な声を上げた。
桜は見られることが――死ぬほど恥ずかしくはあるけれど――嫌だったわけではない。
ただ、反応がない事が不安だっただけ。衛宮士郎という、自らの愛した男の。
「ああ、スマン。凄く綺麗だったからさ……」
ふ、と漏れでたその言葉に言った本人と、言われた当人の双方が顔を赤らめる。
士郎も別に桜を困惑させようと思っていたわけではない。でも、つい言葉を失った。
桜の其処は、秘すべき裂け目は、月光の他には明かりも無いこのうす暗がりの中で、白
と黒の陰影に塗りつぶされた色彩の少ない世界の中で、士郎にはとても綺麗で、妖しくて、
淫らで女そのもので、そして間桐桜という少女だった。
士郎自らがその指で弄り、しとどに濡らさせた淫裂が、士郎を求めて息づいている。
そこから少しだけ顔を上げると、顔を真っ赤に染めたままこちらを伺う桜の表情が眼に
映る。未だに指で顔を覆ったままの少女に少しだけ想いを伝えたくて。
そして秘密の話をするように小声で告げる。
「桜のここは凄く綺麗で――で、すごくエッチだ」
「も、もう、先輩!」
悪戯小僧のような微笑を浮かべつつ、一瞬遅れて控えめになされた非難を強いて受ける。
上目遣い恥らうそんな桜はとても可愛くて微笑ましい。
それでも、もっと桜の可愛らしい痴態を堪能しようと、士郎はそれを口にした。
「――桜、自分で広げてみてくれ」
「え、ええ?」
思いがけない提案に、戸惑う。すぐには何と応える事も出来なかった。
まるで淫らなショーの様に士郎の眼前でそこを開いて見せ付ける自分を想像し、気が遠
くなる。そんなはしたない真似はとても出来ないと思った。
でも。
「ダメか?」
そう訊ねながら膝の内側に唇痕を残す士郎と視線が絡む。腿に置かれた手と膝の内側に
触れる唇から伝わる士郎の体温が、切ないほどに桜を募らせていく。
もっともっと。もっと――もっと、近いところに――いや、そう、直接に――
桜の其処を弄る士郎の熱い、男の指の感触が、リアルな実感を伴って想起される。それ
だけで桜は自分の『肉』が今はそこに無い指を奥へ導こうと蠢くのを感じていた。
その一部始終を注視されている。しかももっとよく見えるようにと、桜の女肉が男を求
める淫らな振舞いを全て見せて欲しいという要求だ。それも、息のかかる至近で。
自分が本当はいやらしくて淫らな女の子である事を桜は十分に理解している。
そして士郎がその全てを曝け出しても受け止めてくれるだろう事も。
だから、それでも羞恥が桜を躊躇わせるけれど、最後には自分が士郎に全てを見られ、
理解され、その指で舌で喘がされ、士郎の思いのままに貫かれて淫らな悦楽に耽る愉悦に
耐えられないだろう事も判っていた。
だから。
桜は顔を羞恥に赤く染めながらも震える指をゆっくりと自分の其処へと伸ばした。
「――ッ」
ギュッと目を瞑っていても、クチャリと言うはしたない水音と士郎が息を飲む気配だけ
は伝わってくる。桜は秘所を自らの指でくつろげている自分がどれだけ卑猥な痴態を晒し
ているかを想像してほとんど泣きそうだった。
だというのに淫らな肢体は男を、士郎の愛撫を切なく待ち焦がれる。息が乱れ、形の
いい胸が震える。士郎がいつそこに触れてくれるのかとゾクゾクした疼きが桜を捕らえて
離さなかった。
士郎は士郎で、その淫猥な光景に昂ぶる自分を抑えつけるのに苦労していた。
目の前に居る桜が淫らなイキモノだからなのか、自分の性欲が人一倍強いのか、それ
とも男と女というのはそもそもそういうものなのか。愛しい、優しくしたいといつも
思っているというのに、本能の獣が貪り食うような蹂躪するようなねじ入れて犯す交尾の
衝動を求め続ける。むせ返るような女の匂いに包まれて男が疼く。
目前には白い指で肉の合わせ目を広げられた桜の秘裂。
この中に何度欲望を注ぎ込んだ事だろう。
今も触れるこの脚を折り曲げ、背中を逸らさせ、くちづけを繰り返しながら、幾たび桜
と共に果てた事か。
想えば逢瀬の数々が胸中を駆巡る。
そして、士郎は桜の中心へと愛しげにくちづけた。
「ハ――ぅんんっ」
これまで唇痕を残した場所とは明らかに違う、甘い鳴き声が上がる。
トロトロに濡れた淫唇はうごめいて、士郎のキスを受け入れる。
それだけではない。桜の上の口と違って、もっと貪欲なその入り口は、士郎に飲ませよ
うとトロトロと熱い『唾液』を溢れさせる。その桜とオンナの味を舌に感じながら、一心
に啜りながら、士郎はその秘唇を丹念なキスを繰り返した。
「はんっ――――ふは……う、あ――ん」
士郎の舌が桜の裂け目を舐めしゃぶり、啜る。
淫らな唇をその口で摘み、はみ、舌でなぞり、ディープキスをして唾液を送り込む。
――先輩が、先輩がわたしの――エッチなとこを――!
その事実が桜をどこまでも歓喜させる。
こういう事に、桜は何時になっても慣れられない。自分が士郎の快楽に奉仕するのは
好きであるし、幾らでもしてあげたいし舐めてあげたいと思う。でも自分がされる事には
奇妙に慣れられず、士郎にされるとどうしていいか判らなくなる。
けれど身体は貪欲に士郎の愛撫を受け止め、ますます悶え、淫らな痴態を演じていく。
そしてそんな桜が可愛くて、士郎は舌で桜をあえがせる。
押さえ込んだ脚の付け根から愛液の流れた跡を辿り、溢れ出す蜜をすする。チロチロと
顔を出した真珠を探り、息を吹きかけてはくすぐっていく。時には桜の肢体に唇痕を残し
た時の様に思いっきり吸ってみる。
その度に桜は抑え切れない声を上げ、その身体を躍らせた。
折り曲げた両の脚が士郎の頭を挟みつけ、自らの口を抑える手には玉の汗が浮ぶ。
「ハッ――ハッ――」
脚の付け根と更に際どい箇所とに幾つめになるのかも思い出せない唇痕を付けられ、息
を整える事も出来なくなる。士郎を体現する熱い舌が、桜の昂ぶりを味わっていく。
悶える全身に汗が浮び、それ以上に淫裂は熱い蜜をしたたらせ、士郎の顔をぽたりぽたり
と塗していく。それを舌で舐め取りながら、士郎はまるで犬のように鼻先を突っ込み、
貪るように桜を堪能した。
溢れ出した愛液がお尻を伝って布団の上へと染みを作っていく。その途上のすぼまりに
その液を塗りたくると、ふと指くらいなら入りそうな気がして押し付けてみた。
「ヒ、ぁ」
途端に桜はそこにギュッと力を入れる。
けれど士郎は、力を抜けばそれは可能だという確信を抱いた。
そして指はそのすぼまりを撫で回しながら、それを誤魔化す様に再び舌を妖しく蠢かす。
桜は抵抗しない。
ねじ入れた舌でその淫唇を丹念に舐めていくと、ヒクヒクと蠢く肉壷が士郎を誘って涎
を流す。貪欲に淫らに士郎自身との結合を求める桜の淫らな裂け目。そこをあやす様に
煽る様に撫でる様に蕩かす様に舌戯を重ね、堪えきれない桜の肢体をくねらせる。
触れ合う肌、匂い、はしたなく立てられる水音、体温、味、そして眼に映る媚態。その
全てが士郎の男を直撃する。いきり立った剛直は既に痛いほどに昂ぶり、先走りを滲ませ
ていた。
それでも士郎は口を桜の秘所から離し、その柔らかい腿肉を食む。
その手を桜のお尻に回してたっぷりな肉を撫で回す。
「ん、ん……」
その思わぬ愛撫に呻きつつも、寂しがりな桜自身はそれだけで焦らされる。
もっと士郎を近くに感じたくて。もっと士郎を奥底で感じたくて。涙の浮かんだ切ない
瞳で士郎を見詰めてしまう。
「せ、先輩ぃ……」
「うん?」
士郎はあえて何も気づかない振りをする。
桜と逢瀬を重ねるようになる前であれば、本当に何も気づかなかったかもしれないが、
今はそれなりに理解している。少し焦らしてみた方が、桜はもっと昂ぶるのだと。
「どうした桜?」
訴えかける目を微笑みでやり過ごし、脚への穏やかな愛撫を続けていく。
折りたたまれた桜の脚をその手に取り、そっとその脛に忠誠を誓うようなくちづけをす
る。至極軽い、触れるだけのキス。今の桜にとって物足りない事は承知の上。
それを受ける桜の瞳が揺れているのを見て、士郎は内心でニッと笑う。きっと今、口に
出しておねだりをするか否かを思い迷っている筈だ。
手に捧げ持った足の甲にキスを。そして爪先にまで舌を這わせる。ピチャピチャと
あえて音を立て、桜の素足をくすぐる。マニキュアを塗るように、桜の爪の一枚一枚にま
で唾液を塗っていった。
それが気持ちよくない訳ではない。むしろ、士郎が自らの足の甲にくちづける様を見れ
ば陶然とした心地にも成る。
でも――それでも、もう、今の桜は自身の奥底が切なくて仕方なかった。士郎を迎え入
れる自らの入り口が、寂しくて寂しくて堪らない。これまでにもう幾度もはしたない姿も
淫らな行為も見せてきたというのに――結局いつも欲する悦楽に抗えないのに――それで
も常に桜は自らねだる事に躊躇いを覚える。
その思い惑い恥らう可愛さが、士郎にそれをさせているのだ、という事には気づいてい
なかった。
けれど、それにも限界がある。
そもそも自らの身体を抑えられるのなら、桜は今、この部屋へ来てはいない。
士郎が居る。同じ屋根の下に衛宮士郎がいる。この暑い夜の底で、自分と同じように
士郎も寝苦しさを堪えている。そう思うだけで、桜は動悸が高まるのを抑えられなかった。
なんとか沈めようと自分を慰め、持て余し、熱に浮かされて水でも飲もうと台所へ
向かって士郎と出会った。だから、抑えられなくなった。
まして、この状況では。
「――先輩」
「ん?」
士郎の手から自らの足を降ろし、そして起こした全身で士郎の身体にゆっくりとすがり
つく。一回り大きな士郎の身体が桜の肢体を受け止める。いつものように。そう、いつも
の様に。いつも側に居て、してくれるように。
その身体に、桜は自らの肢体を委ねた。
「わたし、もう――だから――」
胸に胸を重ね、その肩に自分の頭を乗せて、その汗ばんだ背中に手を回す。膝立ちの桜
のお腹に士郎の反り返った剛直がめり込んでいる。それに肌を擦りつける様にしながら、
二度三度と浅く呼吸を繰り返す。
呼吸が苦しい。鼓動が激しい。身体が熱い。眩暈がしそう。
こんなにも近く感じる、士郎の身体。男の体温。汗の匂い。背中に回された手。全てが
愛しく、全てが欲しい。だから――
もつれる舌で桜は告げた。
「――来て、ください」
少し控えめに聞こえる、自らの中に士郎自身をねだる言葉。
その単純な言葉に、士郎はゴクリと口中の唾を飲み下した。自らが仕向けたことではある。
しかし。
腕の中の柔らかく、熱く、いい匂いのする桜の肢体。何度抱きしめても飽きる事がない。
幾たび肌を重ねても、新たな感慨が有る。その白いお腹に擦り付けるだけで心地いい。こ
れからこの身体の奥へ自らを突き入れるのかと思うと、下半身が痺れるようだ。
それは最も原始的で根源的な独占欲というものかもしれないし、もっと純粋なオトコの
本能なのかもしれない。ただ、このオンナを存分にしていいという事実に喉が乾く。
それでも。
それでも、それ以上に愛しくあった。
長い月日とは言えないが、逢瀬を重ねてきた、幾度も触れ合ってきたその人と、また
一つになれる事が嬉しくあった。何より、嬉しく感じることがじんわりと嬉しかった。
「ああ」
何か照れくさい。
そんな想いを短い返事にして、士郎はすぐ近くの桜にキスをする。
桜もそれに応えて、長い長い、想いを込めたキスとなる。
暑い暑い夜の底、僅かに差し込む月の光だけが見ている部屋。そこで裸の桜と抱き
合って唇を重ねている。それが、今はなんと自然な事に思えるのか。その理由は良く判ら
ないけれど、もうどうでもいいことだ。
「……は」
「……ハァ」
長く静かなキスを終えて、目が合う。
そしてどちらからともなく微笑して、また抱きしめあった。そのまま布団に倒れこむ。
刹那、胸と胸が重なり合って互いの鼓動が理解できる。
身体を起こした士郎の眼下に、少女の肢体が横たわっていた。月光の下、白くて柔らか
くてどことなく華奢な桜の裸体。ごく自然に、綺麗だ、と思った。
士郎を信頼しきってか、力の抜けた身体は士郎のするがままになる。
その脚を折り曲げるとつい先ほど士郎がくちづけた桜の秘唇があらわになる。露に濡れ
たそこに、もう一度チュッと悪戯なキスをした。
「う、ン……ふふ、先輩ったら」
「ん? 何かおかしい?」
いいえ何もおかしくありません、という桜はすごく自然で、きっと自分と同じ様な心地
なんだろうなと士郎は理解する。
そして濡れた桜のそこに、士郎は激しく勃起した自身をあてがった。
桜をじらした分、自らも焦らされて待ちきれ無くなっている剛直が、桜の蜜に塗らされる。
「先輩、さっきより、凄い――」
威容を眼にして、桜は陶然と呟く。
その瞳が熱く潤んでいた。
「ん。そりゃ、桜とするんだし、な」
言ってから、士郎はちょっとだけ頬が熱くなった。
くにょくにょとした濡れた淫唇と触れ合うだけで、士郎のものは刺激され、先走りを
垂らす。これ以上は、待てない――
痛いほど固くなった自身のそれを見下ろし、それから桜に目を戻す。
歓喜への期待に濡れた二つの視線が絡み合う。士郎は桜に覆いかぶさるようにしながら、
それでも絡ませた視線を離さずに、もっとも近い距離で、濡れた声でその名を呼ぶ。
「桜――」
「――はい」
それが合図。
一気に突き入れられた士郎自身が、ぬるりと桜の中に埋没した。
「ッ」
その瞬間が、声に、ならない。
最初に感じたのは、そこがひたすらに熱かったことだった。
桜の淫らな裂け目から侵入した士郎のソレは、桜のオンナに食い締められてたまらない
悲鳴を上げる。その撫でられる様な、というにはあまりにも密着した肉と肉の間に潜り
込む感覚が、自分が桜の奥に居る事を理解させる。
自らの肉襞を掻き分けて、士郎がねじ込まれてくる。桜自身が士郎のそれを咥え込んで
いる。その感慨が桜を歓喜させる。
ほとんど限界まで桜の肉の合わせ目を押し開けて侵入してくる士郎の剛直を、桜はお腹
の奥で受け入れた。
「あ、は。先輩が――」
自らを貫かれた実感が愛しくて、桜は自分の下腹部を柔らかく抑える。その中に、確か
に士郎が居るのを確かめるように。
その桜を、士郎はギュッと抱きしめる。好きな人と、愛しい人と一つになっている実感。
それは他の何にも代えることのできない瞬間だった。
桜も嬉しそうにその手を士郎の背中に伸ばす。その両腕で士郎の背中を抱き、その両脚
を士郎の脚に絡ませ、胸を士郎のそれに密着させて、頭をこつんと士郎のそれに当てる。
二人の発する熱気と、二人の匂いと、二人の鼓動とを、あます所無く感じ取れるように。
そして、士郎はゆるやかに挿送を開始した。
「ん……は……んン」
漏れる桜の喘ぎを心地よく聞きながら、士郎は身体を揺すり続ける。
最初はゆっくりと。少しでも長くこうしていたくて。どうせそのうち堪えきれなく
なってケダモノのような性交になるのだから。だから、今のうちにもっと桜を感じておき
たかった。
すぐ横の、桜の髪に顔を押し付ける。
夏の夜特有の、湿った気配。僅かにあるのはシャンプーの残り香だろうか。それから汗
の匂いと、発情した女の匂い。鼻腔をくすぐる、桜の匂い。それらが入り混じって、
士郎の官能を刺激する。
衝動のままに、士郎はその首筋に吸い付いた。
「ひゃ、ん」
士郎自身の挿送に合わせて揺れる桜の肌はほんのりと染まっていて、士郎をそそる。
そこにくちづける度に、桜の中はキュッと締まって士郎の愛撫に応えた。
締め付けられる膣道を強引にねじ開けて自身を進める摩擦は、士郎の背骨を火花のよう
に駆巡る快楽と化す。
やがてそれにも飽き足らなくなって、士郎は桜の脚をその腕に抱えなおす。身体を少し
だけ起こすと、二つ折りにされながら士郎に貫かれる桜の肢体が眼に映る。その扇情的で
淫らな光景の中で、最も目につく所。士郎は桜の胸の先端にむしゃぶりつく。
「ン、んんっ……うっ、あ」
桜の呻きとも喘ぎともつかない声を聞きながら、士郎はその桜色の先端に歯を立てる。
甘く噛み付いて、それからチロチロと優しく舌で転がしていく。不意にその突起を食んだ
まま引っ張ると、桜は堪らない嬌声をあげた。マシュマロのような胸に顔を埋めて士郎は
ありったけの口戯を続ける。その間も蜜に塗れた剛直は休む事無く桜の肉襞を引っ掻き
回し、その反り返りでえぐり続けていた。淫らな水音と匂いが振りまかれる。
「ふぁ――あ、ああっ、せんっぱ、い……」
痛覚で敏感にされた乳首を舐めしゃぶられる疼痛にも似た悦楽。秘唇のその奥をえぐら
れ続ける快楽。なにより、士郎にそれをされているという実感。繋がっている身体のその
重みの愉悦。全てが桜を喜悦させていく。
お腹の内側の弱いところに擦り付けられる行為が、もっともっと、もっともっと、と
加速させていく。むしゃぶりつく頭を抱きしめ、打ち込まれる動きに合わせて腰を揺すり、
桜は更なる愉悦を求める。
「ん、先輩、もっと……もっと、くださいっ」
既に、身体中の血が猛りたっていた。
心臓がダクダクと早鐘の様な鼓動を刻み、沸騰するような鮮血を駆巡らせていた。
酸素を求めて荒い息を繰り返し、意識は痺れる様な感覚に溺れていた。
それでも辛うじて残していた士郎の自制を、桜のその声は消滅させた。
「――――ああ」
短く答え。
その背を抱きしめる手に力を込めて。
士郎は、思う様、その腰を桜に打ちつけた。
「ひっ、ああああっ! あ、ひぃっ、ん!」
桜の濡れに濡れた淫裂が、士郎の剛直にえぐられる。
秘唇をこじ開け、肉襞を掻き分け、その奥を、子宮口までをノックする。
荒々しく抱く両の腕は、決して離さないとばかりに力を込めて桜をその身体に押し付け、
逃げる余地など残さない。
密着すればするほど欲求は募り、高まる。
目の前の愛しい女との睦言を、もっと、より、本能のままに。
自らの内にある渇望のままに士郎は桜の肢体を激しく責め立てた。
その力強い動きでえぐられ翻弄されながら、桜は自ら士郎の身体にしがみつき、士郎の
全てを全身で受け止めた。そこが弱いのか、お腹の内側の一ヶ所を硬すぎるそれで抉られ
る度に、桜は軽く達しそうになる。いや、達してしまう。その度に桜の女肉はギュッと
その突いてくる剛直を握りしめた。
「はっ――は、ぁう――ひ、ぅン」
それでもまだ、より多く、もっともっと求めてしまう。
背を反らせ、激しい突き入れに合わせて自由にならない腰を振り、身体全体をこすり
付ける。
触れるのはまだ若さの残る、それでも鍛えられた胸板。大人のものに変わりつつある
その背中。絡ませた脚も、眼に映る肩も、顔も、触れる全てが桜に士郎を感じさせる。
それが求める男だと訴えかける。
だから桜は白みかける意識で必死に士郎を求め、すがりついた。
桜の意思を宿してか桜の内側は士郎自身を締めつけ、逃がそうとしない。その中を強引
に、蜜塗れの硬い剛直が行き来しては肉襞を擦りつける。それは二人共に快楽と淫悦と
歓喜とをもたらしていた。
見下ろす眩き月も雲の奥に姿を消した。部屋には暑さと熱さと鼓動と息遣い、そして
士郎と桜だけがある。その存在だけを感じて、互いを求め続ける。
ぐちゅぐちゅとその淫裂を掻き回しながら、まるで桜の中に自らが溶けてしまうようだ、
と士郎は感じていた。ここは間桐桜の中で。腕の中に居るのは間違いなく桜で。だから
本当に嬉しかった。
気持ちよすぎて打ちつける腰は既に止まらない。桜の奥へ、更に奥へ。獣のオスのよう
に士郎は桜の中へ挿送する。
「桜、もっと――」
「……ん、は、はい……ヒぅ」
かすれた声で囁きながらその桜の脚に体重をかける。
可能な限り侵入する為に、士郎は桜に限界まで脚を開かせた。既に蕩けきっている桜は
抵抗する事無く士郎に応じる。もはや余力もとうになく、残っているのは士郎にすがりつ
く力と締め上げる蠢きだけ。その背中に、腰に回した手をグイと引き寄せて、士郎は桜の
最奥を突き続ける。もう限界も近い。その瞬間の悦楽を思うと胸が高鳴る。
「ひやっ、く……っ! うんんっ――くぅぅん……あふん」
士郎の身体の下で、桜の肢体は淫らに喘いだ。
開かれた両の脚の間で、打ちつけられるたびに肉の真珠が押し潰される。
士郎自身に貫かれながら、もう何度も軽い絶頂に達している。けれど身体はまだ求めて
いた。自らの淫らな裂け目のその中に、膣道に、子宮口に、肉襞の一枚一枚にまで士郎の
白濁をぶちまけられてイキ果てる事を求めている。
――わたし、なんて、淫らな――でも――
先ほど、喉奥に浴びた士郎の精液の感触が蘇る。
粘りつく、濃くて苦い、多量の、飲みきれない士郎の、精液。
熱いソレを自らの最奥に放たれ、塗され、溢れた白濁が淫唇から零れる様を想像するだ
けで、桜の中はそれを欲しがってギュッと絞るように士郎を締め上げる。
――わたしで、気持ちよくなって、ください。そして、わたしに――注いで――
淫らな喘ぎを繰り返しながら、扇情的に腰を振り士郎自身を喰い締めながら、桜はそっと
士郎の顔に手を伸ばした。流れ落ちる汗の珠をその指で救い、自らの口にそれを含む。塩
の味のするそれはどことなく士郎の味がする気がして、桜は舌の上で転がした。
その口を、士郎のキスが塞ぐ。
「―――」
「うン――」
くちづけというよりは、舌を絡めあう睦言。唾液の交換。
互いの荒い息がかかる距離で舌を舐めあい、体液を啜る。
離された舌から銀の糸がツゥと橋をかけ、そして途切れた。
交わされた視線から、潤む瞳から、互いにもう余裕も無い事を知る。だから二人は何も
言わず片手を差し出した。
士郎は左手。桜は右手。その指が組み合わされ、ギュッと握りしめられる。
何も言わずとも同じものを求めたことに微笑みを見せあった。
そして、そこからは喘ぎと息遣いだけが部屋を支配する。
大きく硬く張り詰めた士郎自身が、行為を終える為の動きに変わる。
それを絶頂寸前の身体の内に受け止めながら、桜の脚は士郎の腰にまわり、自らの最奥
での射精をねだっていた。
十分に潤った淫唇の奥を剛直が擦り付ける粘度の高い水音と、心臓の鼓動とがうるさい
程に響く気がして桜は微かに頬を赤らめる。
そして士郎の鼓動も感じたくて、密着した胸の膨らみを更にその胸板に擦りつけた。
胸もお腹も密着している。腰は、桜の脚が回されている。その肢体の柔らかさを存分に
感じながら、士郎の剛直はその肢体の中心を貫き続けた。それももう、長くは無い。射精
の予感を士郎はもう間近に感じていた。
――あは――先輩、もうすぐ――
自らの淫唇を出入りする士郎自身の予兆を感じて、桜は愛しげにソレをギュッと締めつ
ける。絡みつく肉襞を掻く、お腹の内側を突くソレが、熱い熱い士郎の白濁をほとばしら
せる瞬間を待ちかねていた。
「ふくっ、はぁ――! うく……っ――先輩、先輩ぃぃ……」
夢中で自分を呼ぶ桜に、士郎は絡み合った指に力を込めた。
限界を迎えつつあるいま、身体の全てで桜を感じている。その柔らかさと熱さと匂いと、
そして愛しさに満ち溢れているその肢体を。この女が、狂おしいほど愛おしい。桜に求め
られて、そして一つになれる今が全てでも構わなかった。
もっと深く、もっと奥に。そんな想いを込めて士郎は自身をぬめる膣道の奥に打ち付け
ていく。その行為が士郎と桜との双方を押し上げていった。
身体が、蕩けるように。
想いを、満たすように。
二人の交わりは加速していく。
乱れる息の下、激しい性交のただ中で、ふと士郎は桜と目が合った。その揺れる瞳の奥
に自分が映っている事が、たまらなく嬉しかった。
「ん、もう――」
「はい。来て、先輩――し、士郎……さん」
名を呼ばれたのが、致命傷だった。
最後に思い切り奥まで突き入れた士郎の剛直が、桜の最奥に熱い白濁をぶちまける。
「ああっ! 熱っ……い、……あ、つ……」
その後は言葉にならない。
ドクドクと何度も何度も自らの中に出される士郎の精液を、その熱さを身体の奥に感じ、
桜は喜悦に押し流される。ビクビクと震える身体が士郎の全てを絞り出そうとして、痙攣
する。最も高いところまで達した歓喜の愉悦に意識を薄れさせながら、最後に桜は士郎の
身体にしがみついた。
「ンッ……は、ぁ…………ぁ」
目の前が白く染まる。
身体が弛緩していくのが理解できる。布団の上で、乱れ続けていた髪が動きをとめる。
それでも感じる重みだけをしっかりと胸に抱く。
体内でまだ続く射精に満たされながら、桜は心地よく意識を手放した。
――桜。
最後に聞こえたのは、自分の名を呼ぶ愛しい人の声だけだった。
月は翳り、風も無く、夜は更け。二人はひっそりと抱き合ったまま。
/
いつの間にか風が出てきたのか、縁側に吊るした風鈴の音が、ここまで微かに聞こえて
くる。
真夏の夜の底の世界はあい変わらず寝苦しい。
でも今夜は二人より添っていても、きっといい夢が見られるだろう。
そんな予感を感じながら、士郎はそっと目蓋を閉じて今日を終える。
……もっとも、明日はまた寝苦しいかもしれないけど。
片方だけ薄目を開けてそう言ってみたら、相方はほんの少しだけ嬉しそうに微笑んだり
したのだった。どうやらしばらくは寝苦しい夜が続くらしい。
いいけどさ。
そう呟いて、士郎は今度こそ本当に眠りについたのであった。
<了>
後書
えー、製作コンセプトが「たまには普通に18禁を――」だった今作ですが……
……読み返すと普通過ぎてもうひとつ物足りなかったり。
どうも「普通に18禁を書く」と「普通の18禁を書く」の差異を読み違えたらしい。
エロス控えめ気味なとこも含めて要反省。
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