笑う湯女の生活
権兵衛党
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知識としてはしってはいた。
でも目にするのは初めてだった。当然と言えば当然の話。
こんな時なのにと思う一方、こんな時だからなのかもしれないとも思う。種としての
生存本能がどうとかこうとか。よく知らないけど。
奇妙に気恥ずかしく、わたわたとうろたえる一方、顔を抑えた手の指の間からそれは
しっかり目に映っていたりなんかして。自分がいやらしいと感じてちょっと落ち込む。
でも彼の一部ではあるし、ほんの少し興味も――
うろうろ。おろおろ。
うろうろ。おろおろ。うー、困った。
――よく眠ってる……お、お、おっけー?
/
四月○日。
自室で余暇を満喫していた。
単にする事がないだけともいう。
昼夜を気にしない生活の末に、はて今は朝なのかしら夕方なのかしら?
そこで二人の来客が立てこもる部屋を訪問する事を思いついたのは、ただの気まぐれ。
女の子の方は無口でお喋りの相手にはあまり向かなさそうだし、男の方はアレなので
どうかと思うのだけれど、でも興味はそそられる。むしろ何故あんなモノがこの世に存在
してこの館に居るのかと、興味深々。
この居候生活も終わりを迎えるべく一部生存者が『生き残りをかけたサバイバルゲーム
全員強制参加ただし餌として』を実行に移している今、何気にこのいざという時の生贄
ゲフゲフ盾ゴホゴホもとい来訪者で遊ばない手はなかった。いえ、お母様も似たような事
を考えたからこそ、この生活が終わりを迎えようとしているのだけれど。
何気なく指先で自分の唇に触れてみる。
栄養不足でカサつくようになったそれを、会話の流れとどういう反応をするのかが見た
かったというだけの理由で彼の唇に押し付けてみたりしたのは、もう何日前の事だった
かしら?
つまるところ退屈していた私は暇つぶしの玩具を欲していた。
元から居る退屈な玩具の数が減りつつある今、新しい玩具に眼が行くのは当然よね?
か、勘違いしないでよねっ、ただ退屈なだけなんだからっ……などと誰に対してなのか
も判らない言い訳とは裏腹に、いそいそと彼の元へと足を運ぶツンデレな大江湯女であった。
マル。
「嘘だけど」
いえ、一度言ってみたかったから。
すこぶる汎用性が高くて、耳にして以来わりと使ってみたいと思っていたのだけど。
でも……
無人の廊下を歩みつつボソッと口にしてから、しばし考える。
このフレーズ、使うと著作権をタテに賠償金を請求されたりしないかしら?
更に考えて、一人首を頷く私がいた。
彼がさるネズミの国の住人の様に著作権意識が無駄に高いとは思わないけれど、
とりあえず請求してみた、程度の言動はやるに違いない。それにそのままお下がりを使う
のは何か不愉快を感じないでもない。パクリではなくオマージュ。そう言い張れる程度の
些細なオリジナリティを発揮する必要を感じるわ。そうね、ええと……
「戯言なんだよ」
……違う。何かが違う。別の方面に行ってしまった。
やりなおし。もう少し頭を絞りなさい、私。残り少ない貴重な栄養を脳みそに回すのよ。
「お爺様が死にかけて」
消費した栄養を即座に返還要求します先生っ……はあ、使ってしまったからもう無い?
「がっくり」と独り言を口に出して見る。
そもそも名にかけるのならまだしも、死にかけてどうするというのかしら。
貴重な養分を浪費して頭を絞って見た結果は意味不明というかむしろ、意味悲鳴。
正に無駄遣いの見本市。税金の方がまだ有効に使われている気がするわ、私は払ってない
けれど。
あまりに蔑ろにされ続けて悲鳴をあげる心の中の意味氏を黙殺して、廊下を進む。
ついでに自作自演のツンデレナレーション自体も黙殺して頂ければ大変ありがたいかと
思われますのでそのように処理願いを出しておきましたら、願書提出後即座にその場で
ペラペラな不合格通知を叩きつけられました。ちなみに真っ赤に血染めた可愛い文字で
『不許可(ハートマーク)』と書いてある。
「嘘だけですけれど。――いまいち」
惜しい。『人間失格(ハートマーク)』と書いてあったなら微妙に嘘だけとは言い切れ
なかったかもしれないのに。
嘘しかないのは見え透いてるのでもう少しおりじなりてぃとやらを。
一言コメントを添付してとりあえず頭の中で不可の印をポンと押した。審議差し戻しに
よりこの件は保留。
それはさておき、私は何食わぬ顔で物陰を伝いながら慎重に廊下を進んでいく。こんな
ところで菜種に出くわしたら命の保障はないのだから。
空腹の虫とマブダチになって久しい私にはドロンと菜種のディナーに化けるのは実に
た易いお安い御用なのですけれど、そうなるつもりは無いのですわ今のところ。ここまで
来てゴールが菜種のお腹の中なんてぞっとしないし。
抜き足差し足で厨房の前を通り過ぎ、忍び足で二階へと続く階段へ。階段で少々息を
切らせつつもそれさえ過ぎてしまえばもう目の前。ふふ、こんなミッション軽い軽い。
昔見た先生の雄姿を思い浮かべればこのくらい。
たとえHPが1しかなくても冒険の一つや二つ根気があれば――そうですよね
スペランカー先生、とむかし何千人と虐殺したレトロな貧弱冒険家を師匠に祭り上げて
見たりする。ちなみにスペランカー先生はどうか知らないけれど私に根気などというもの
がある筈も無く、先生はいつもコウモリの糞や膝ほどの落差に負けて無駄に命を散らせて
おられました。おしまいには如何に嫌な死に様を晒すかという別方向の情熱に突き動かさ
れて、ありとあらゆる死に様を見せてくれたスペランカー先生でした。嘘ですけど。
……なんて便利な言葉なのかしら。悔しいけど、認めましょう。あんなのとの類似点を
増やすのは業腹だけど、まるで十年言い続けたかのように酷く口に馴染むフレーズだこと。
さて、話を戻してっと。
何処が嘘かと言うと何千人と言う所。せいぜい何百人だった筈ね。一度もクリア
出来なかったので、正に命の無駄使い。私は先生に命の儚さと理不尽さを教わったの。
ああ愛しのスペランカー先生、出来うるならこの手でそっとその身体に爆弾を埋め込んで、
やっとの思いでたどり着いたゴール一歩手前で、優しい笑顔とねぎらいの言葉と共に
自爆ボタンをポチッと押し込んで差し上げたい。うっとり。嘘というにはちょっと微妙。
そんな人間爆弾の恐怖、スペランカー先生爆殺計画はさておいて。
「実はもう、既に彼のお部屋の前に来ております」
あの伏見という子は二日目からひと時も彼から離れようとしていなかったので、きっと
今も一緒に居る事だろう。そしてそんな二人の愛の巣にノックもせず、おもむろにガチャっ
と扉を開けにかかる空気の読めない子が一人。もちろん私の事である。
ノック抜きで淑女の部屋に押し入った前歴のある紳士さんはいったいどんな言葉を投げ
かけやがるのかしら。いやん濡れ場のまっ最中だったらどうしよう、と両手で自らの頬を
抑えつつ自問し、無論ズカズカ立ち入りますけど、と全く無表情のまま自答して。
「おはよーございまー……あら?」
外側からしか鍵の掛けられない扉の向こうに広がっていた光景。
天井からの照明を消さないままの部屋。真正面に両手をだらりと投げ出し、椅子に深く
背を預けて眠っている彼。それ自体には不自然は無い。両腕を使用不能にしてしまっては
寝返りも打てないだろうし、椅子で寝ていてもいいだろう。
血塗れの女物の浴衣を着用しているのも不思議ではない。私が貸し与えたものだし、
上と同じ理由で着替えることもすこぶる難易度が高い事は容易に想像がつく。
ただ。
自然であっても看過できない事もある。
……たとえば貸した浴衣の一部が不自然に突っ張っていたりする事とか。
言いつくろっても仕方ないので、ぶっちゃけ股間。
引きこもり生活六年を誇る輝かしい経歴と希薄なというか浅薄な家族構成の都合で実際
に見た事はなかったのだけれど、アレが世に聞く男性専用器官臨戦体勢(意訳)という
ものかしら。
くっ、こちらから襲撃を掛けてどっかの寝姿拝見番組の様に寝姿を拝見したというのに、
一瞬こちらがひるまされてしまった。してみるとアレには威嚇の効果があるのかも。
対抗して威嚇し返す為にこちらも浴衣の裾を捲くり上げ、女性専用器官を臨戦態勢
(意訳)で露出。バッチ来い。
もちろん嘘ですので信じないように。……やはり便利だ。彼に先駆けて、私が著作権を
申請しようかしら。それはさておき。
まあこれも一応は年頃の少年としては不自然な事ではないのかも。意識もないし
生理現象だと聞いているし。むしろ目撃した私よりも目撃された彼のメンタルに
ダメージ(?)なのでそれも良いとしましょう。
故に。
問題はそれではない。
問題は私がガチャリと扉を開けた瞬間、ビクッとまるで猫に見つかったネズミの様に
床から跳び上がった女の子にある。
もっと詳しく言うなら。
真っ赤に顔を染めながらも一抹の興味を隠し切れず、彼の座る椅子の前にへたり込んで
片手で頬を抑え、身体をなるべく遠ざけつつも恐る恐る彼の(ピー)に手を触れて見よう
と試みていた伏見嬢だった。
「家政婦は見た……なんちゃって」
ほほほ。こんな所を目撃してしまっては、弄ぶネズミを見つけた猫の笑みを浮かべるな、
というのは無理というものよね?
「こんにちは。ええと……伏見さん、だったかしら?」
私がにっこりと微笑みながら部屋の中へと進むと、彼女はわたわたと彼の後ろへと
隠れた。予想された行動ではある。
そしてそこから顔だけを出してびくびくとこちらを窺う様子はなにやら小動物の様で
可笑しい。……胸だけは「小」とは言えないのが何だか腹が立ちますけど。きっと彼女に
してみれば、彼以外はみんな警戒すべき殺人者の一味と映っているに違いない。
おおむね正しい心構えだけれど。生き残りたいのなら、茜を除く生存者はみんな警戒
してしかるべき。もっとも私は少なくとも直接的物理的に危害を加えるつもりはない
けれど。いえ、監禁は物理的危害に該当するのかしら?
そこの所は変な話だが、そこで寝ている彼が一番私を信頼してくれるだろう。
ただし、信用はされていない。私たちは同類であっても仲間ではない。
いざという時には相手を囮にしてでも自らの生存を優先するのは暗黙の了解というか、
私達のような人種にとっては基本事項。私たちは同類の生物だからこそ、相手がどんな
イキモノなのか互いに分り合えるからこそ、最終的に相手を信じる事はできない。
つまり二人でやるババ抜きのようなものである。相手の手札が全て理解できるからこそ、
どんなポーカーフェイスをも信用出来無いというだけ。相互理解は不和の第一歩である。
これは嘘ではない。
ああ、なんて事かしら。私は何を置いても彼を信じてるのに! たとえ彼が「これは
毒じゃないんだ。飲んでくれ」と煙を燻ぶらせるどす黒い粘液の満たされた杯を差し出し
ても、私はそれを信じてその杯を一息に飲み干しますわ。すわすわ。
これが嘘である。
さて、それはさておくとしまして。
おもむろにすっと手を差し伸べて見た。
再びビクッと怯える伏見ゆゆ嬢。彼の後ろからまったく動こうとしない。
それでも特に気に掛けることもなく、私は彼が起きていれば「張り付いたような微笑」
と評するであろう微笑を文字通り顔に貼り付けたまま、手を差し出し続ける。
差し出し続ける。
続ける。
続ける。
続ける。
やがて根負けしたかのように、伏見嬢は上目遣いに私の様子を窺いつつゆっくりと手を
伸ばしてきた。ふふ、野良猫を拾って餌付けしていた経験が生きたわね。嘘ですけど。
そしてようやく伸ばされた手をにっこりと笑ってギュッと握り――
「えい」
――おもむろに、そのまま彼の股間に押し付けて見た。
「%#◇○☆≧!!?」
予想通りというか。
名状しがたい悲鳴が耳朶を打つ
「彼、起きちゃうけど?」
「◇&@ッムグッグッ……!!」
ボソリと囁くと慌てて空いた片手で自分の口を抑えにかかる。
その様がなにやら焼き芋を喉につめた某国民的長寿アニメの主婦の様ねぇ、と暢気な
感想を漏らしてみたりとか。
その間も伏見嬢の手は私の手もろとも彼の股間に押し付けられているのだけれど。
浴衣とその下のトランクスを通した感触が肌にモロに伝わってくる。……正直、どうか
と思う。ふむ、とりあえず予想以上に熱くて堅いっぽいのは判った。正確な判定は実際に
見てみないと不能だけれど。
その頃になってようやく私の手を振りほどく事に成功した伏見嬢は、慌てて手を
引っ込めて彼の椅子の後ろに転げ込む。
そして観察している私の前に、憤然とした真っ赤な顔で、どこから取り出したのか例の
手帳を突きつけてきた。その指の示す単語は。
『おまえ』「痴女」『!』
手帳語と肉声のバイリンガルで非難された。
そして『おまえ』と『!』の後ろの正の字から棒線を一本ずつ消しゴムで消し消し。
……確か、彼女がなにやら「んう、んう」と発音しながら手帳に『んう』と書き込み、
その回数分手帳に棒線を記しているのを見た事がある。してみるとあれは発声のストック
で、使ったらそれだけ消去しているのかしら? 自声を無駄にしないなかなかに見上げた
エコロジカルな省エネである。手帳語が地球温暖化を食い止める日も近い。嘘ですけど。
……は? 著作権? 何を言っているのかしら、私はこのフレーズ10年前から使ってる
わよ? と今決めたので決定。以後そういうことでよろしく。
その他については二つ。
流石に『痴女』という単語はストックしていなかったらしい事と、
エクスクラメイションマークなんてどうやってストックしたのかしらという疑問である。
手帳語の使用法についてはひとまず置くとして。
とりあえず痴女の烙印を押された事については言及しておかねばなるまい。
「貴女も触ろうとしてたクセに」
笑顔を貼り付けたままボソッとそう囁いてあげると、伏見嬢はあうっと奇声を上げ、
それから慌てて両手を目の前でブンブンと振り始める。
「……本当に? じゃあ何をしようとしてたのか説明できる?」
あうあうと口を開閉し、しばし硬直。そして今度は床にがっくり崩れ落ちた。どうやら
説明できるロジックを持っていなかったらしい。
これが彼やら私なら口八丁でべらべらと理屈や誤魔化しを並べ立てるところなのでしょう
けれど、あんまりにも予想通りな素直な反応を返す子である。うふふふ、楽しい。
ここまで楽しいと、もっといじりたくなるのは仕方ないというものよね?
「ほほほほ、認めなさいな。彼の(ピー)を(ピー)にして(ピー)したり(ピー)たり
して、(ピー)する様を眺めつつ(ピー)を行って(ピー)つもりだったのね?」
追い討ちをかける様にたたみ掛けてみる。
と、あにはからんやきょとんとする伏見嬢。……あら? 真っ赤になって反論するか
暴れ出すかだと思ったのに。ああ、もしかして。
そして首を傾げた伏見嬢からの返答は案の定。
「ピー」『って何』「はてな」
というものだった。
くっ、この子放送禁止用語に込められた浪漫が分らないらしいわね。
あとエクスクラメイションマーク=『!』はストックしているのに何故クエスチョン
マーク=『?』は口頭で述べているのか。いったいどういう基準でストックされているの
かが興味深いところ。
それはさておき。
彼女の精神的ダメージを慮ってあえてビープ音で表現してみた部分が伝わっていない。
では仕方ありません。私は極めて真面目に、あたかも検事が被告に証言を尋ねる様に、
使用を禁じている用語を駆使して言い直した。
変換して後、曰く。
「……彼の固く勃起した男性器を露にして手でしごいたり舌で舐めしゃぶったりして、
抗えずに白濁液をぶちまける様を眺めつつ手淫を行って自らの快楽を貪るつもりだった
のね?」
正に直球である。あ、今度は通じた。
ビシリと石化したように固まる伏見嬢。血が顔に集中し、よろりと後ろに倒れ掛かる。
伏見柚々の精神に523のダメージ。伏見は倒れた。あなたは死にました。おお伏見よ
死んでしまうとは何事だ。嘘ですけど。
やがて、もう一度機会を与えよう、とばかりに伏見嬢は再起動。ひそかに所持金が半分
になっているに違いない。たぶん嘘。
いやもう、どこにそんな量の血があったのか顔はトマトの様になっている。
「ち、ちが、ちがっ、ちがちがちが、チガー、でなくて、ちがっ――」
「血が?」
特に流血している様子は見えない。ああ、顔に血が昇りすぎて顔面の血管が切れたの
かしら? そんな様子でもないけれど。あるいは米国における中国人の蔑称の是非に
ついて何か訴えたいのかしら。
あわあわと壊れたレコードの様に繰り返した後、ようやくその存在を思い出したのか
伏見嬢はばらばらと相棒たる手帳を捲った。
指し示された単語を拾い、読み上げる。
「違う、このまま一気に既成事実を作って認知させるつもりだった……なるほど」
「!?」
慌てて手帳の文面を確認する伏見嬢だった。
いえ、何度読み返しても『違う』『そんな事しない』以外の単語は、指してないのです
けれどね。
というかたとえ指し間違えたとしても、その手帳のストックにそんな言葉はたぶん乗って
ない事に早く気づきなさい、と愚考する次第。
……それとも『既成事実』とか『認知』とか『あなたの子よ』とか『責任とって』とか
ストックした記憶があるのかしら、伏見柚々。手帳の謎は深まるばかりね。
嘘ですけど、たぶんおそらくきっと。
で、今現在チェックし終えて涙を浮かべた伏見嬢に恨めしそうに睨まれてたりして。
「はいはい。違うそんな事しない、よね?」
憤懣やるかたなし、といった伏見嬢はそれに大きく頷きつつ手帳に消しゴムをかけた。
しかしまあ、こうまで素直にリアクションを返してくれる人材は貴重よね。
それに、と現在地を確かめて見る。
はじめは未だ起きる気配も無い彼の後ろに身体を隠していた伏見嬢、私に手帳を突き
つける度に身を乗り出してきて、今では私とほぼ直に相対していた。これからどうするに
せよ少なくとも最初の状態よりは今の方がやりやすい。
まあ指摘すればまた引っ込んでしまうだろうから、あえて指摘はしないけれど。
……けど、本当に起きてこないわね彼。ひょっとして、寝てるんじゃなくて昏倒してる
んじゃないかしら。
まあそれはいいとして。
さてこれで場を和ます為の話のつかみはOKといったところか。
では本題に入りましょう。
私は改めて二人に向き直る。
そしておもむろに彼の浴衣の裾の下に両手を差し入れた。
「――!?、?」
妖しい霧が立ち込める。伏見は混乱した。
もとい。
私のおもむろな行動に混乱しつつ、私を阻止しようと慌てて腕にぎゅっとすがりつく
伏見嬢。ああこの腕に当たってるこの感触が、たふんたふんという効果音で表現される胸
――湯女は惑わされ一回行動不能。
と攻防が進んだところで、例の手帳が開かれる。
『何を』『するのかね』「は、はてな!」
「いえ、あなたはしないそうだから」
満面の笑みで答えて曰く。
「……私が彼の固く勃起した男性器を露にして手でしごいたり舌で舐めしゃぶったりして、
抗えずに白濁液をぶちまける様を眺めつつ手淫して自らの快楽を貪ってみようかと」
本題も大して変わってなかった。
そもそもが暇つぶしなもので、何でもよかった。
彼が起きてたなら別に陰険漫才やって帰ってもよかったし、小動物を餌付けもとい
伏見嬢と意思の疎通を図るだけでもよかったのだけれども。
今、この状況だと、これが一番面白い事になる気がしてたりなんかしちゃったりして。
その為なら不快なモノに触れる労力もものともしない。
ふふ、もし事の最中に彼が起きたらどんな最悪な暴言を吐くのか楽しみだわ。キスで
あれだけの拒絶反応が出たくらいだから――嫌がらせを楽しみにして好きでもない男に
こんな事をしようという辺り、私もちょっとマゾいのかも。
……既成事実とか認知とか、そっちの方まで行ってしまうと、面白すぎて流石にどうか
と思うわねぇ。その後の人生全部をチップに賭けをする気までは今のところ、無い。
それはさておき。
「だ、駄目ぇ!」
今にも泣きそうな伏見嬢がひしっと私にしがみついている訳ですが。
けれど力を込めるポイントを間違っているので特に邪魔にはならない。
「や、やめ……」
「せーの、っと」
制止を振り切りトランクスに手を掛けて勢いよく引っ張る。
と、見慣れないモノがびこんと勢い良く。
「――っ」
「ひあっ!」
さすがに息を呑んでのけぞった。実のところ、私だってこんなの見たことないし。
そして悲鳴を上げて慌てて顔を覆う伏見嬢。……でも、その配置だと指の隙間から
ばっちり見えてますね伏見ゆずゆずさん。
そのまま呆然と彼の股間に屹立したモノを見ている伏見嬢を何となく見ていると、
やがて見られていることに気づいたのか、伏見嬢はこちらに手帳を向けてきた。
『おまえ』『やっぱり』「痴女っ」『!』
「んん、何のことかしらぁ? 私が具体的に何をしたのか教えてくださる?」
にやにやと笑いつつ問い返したら、憤然たる勢いが半減してしまった。
決定的に押しが弱いので扱いは楽。
それは良いのだけれど。
「……まあ、否定は出来ないかしらね」
自らが開放してしまったモノに目をやりながら、頬に手を当てる。
それは外気に触れて縮こまるどころか、ますますいきり立っている様にすら見える。
……それにしても起きないわね、どんな快眠満喫してるのよ。このままだと私、
引っ込みつかなくなって本当にアレをしごいたり舐めたりしなきゃいけなくなりそう
なんですけど。
都合よくこの辺で起きて痴女なり痴漢なり、あるいは性犯罪者呼ばわりしてもらって、
それに軽口を返せばこの辺でうやむやにできるというのに。空気読んでこの辺で起きなさ
いな。無理かしらね。空気とか読めればもう少し人間してられるものね、あなたも私も。
伏見さんにはあんまり口先の高等技術を望んでもしかたないみたいだし。桃花の部屋の
髪の伸びる日本人形の方がまだ饒舌によく喋る。嘘ですけど。
しょうがないか。面倒だけど。
一度嘆息してからその場に正座し、向き直った。
高さの関係で、ピンと起立したものが目線と同じ高さである。
……人類の半数はこんなモノを股間にぶら下げて歩いてるのね。重くないのかしら?
血液の流れ込んでいない時はもっと小さく収まってるらしいけど、などと人間の神秘に
ついて思いを馳せつつ、とりあえずピッと一本だけ立てた人差し指でスッとなぞって見る。
時おり茜や桃花の背筋をなぞって奇声を上げさせるのと同じ感覚で、裏側を上から下
まで一直線に。ふむ妹達の背中よりも温度高い。むしろ熱い。
押された彼の男性器はフラッと揺れるが特に彼からの反応は無い。ここまでしてあげて
るんだから、お義理でもうめき声の一つくらいは上げて欲しいものなのだけど。
つまらないわね。茜はうひゃひゃいとか派手な悲鳴をあげるし、桃花だって仰け反った
挙句に凄い目で睨んでくるのに。
代わりに隣から、はうっという奇声が上がったりして。
――ふむ。
しばし考えて、グリッと首だけ九十度ばかり回転させてみた。おろおろし続けている
伏見嬢と眼が合い、先方はびくっと対人恐怖症チックな動揺を示す。
ほほほ、その気になればさるホラーの様に真後ろを向く事だって容易いわ。嘘ですけど。
人体に不可能な動きは私にも無理。一人で首百八十度回転に挑戦する遊びとか敢行して
遺体で発見される、なんて馬鹿な一人遊び面白くないですから。ええ。
それは置くとして。
「……まざる?」
ついついと一本だけ触れさせた指を上下させつつ、鬼ごっこか花いちもんめにでも誘う
ように、参加を促して見た。まざりたいヤツこの指止まれー、ではないけれど。
伏見柚々嬢と彼が付き合ってるかどうかは定かではないが、少なくとも好意を持って
いるのは確かだし。そして仮に付き合ってるとしてもこれまでの反応からプラスチックな
絞殺死体もといプラトニックな交際である事は間違いない。
となれば、ここらで彼らの人間関係に無駄に一石を投じてみるのも面白いかもしれない、
と愚考する次第だったりして。このまま私が彼にしてるのを見せてるだけでも人間関係に
愉快なヒビとか亀裂とか入りそうだけど、一人でするのって面倒だし。
上手く生き延びればあとあと面白い事になるかもしれないにしても、とりあえず私は
労力だけ払って彼にいい目だけ見させるのはつまらないと思うところ。変に思い詰めた
伏見ゆずゆずにわき腹を刃物で抉られる危険も減らすことになるし、本人にも年頃の乙女
らしく好きな人の(ピー)に興味があるのは確定なのだから一石三鳥というものである。
……ところで一石三鳥って石はいったいどういう軌道を描いてるのかしらね。通常の
三倍なのだから、きっと赤くて角のある石ころだったんでしょう。嘘ですけど。
話を振られた伏見嬢はといえば、大変真っ当な乙女の恥じらいを見せて真っ赤になって
いた所に想定外の選択を迫られ、完全にオーバーヒートしたようである。今にも
プシューっとか擬音を立てて頭から水蒸気を噴出しそう。ロボットじゃないよアンドロイド
だよ。究極超人UU、これといって特技は無いけどお胸は大きい。お米が主食。ご飯が
食べられないとお腹が空くじゃないですか。嘘だけですけど。
いえ、お腹空いてるのは本当なのだけれど。
こうしていても話が進展しないので、ダメ押し。
「交ざらないのなら、そこで見てなさいな。私が彼と愛し合うところを」
……うわあ。愛し合う、ですって。
自分の台詞ながらちょっと鳥肌が立った。これほど愛とか恋とかから遠い行いも
そうそう無い気がする。
けれど盲目に恋する少女の対抗心を燃やすには、パッと見にそう見えていれば十分。
彼の内腿にそっと片手を置き、愛しそうに顔を股間に近づけて、指で輪を作り、
柔らかな手つきで触れた手を上下に動かす。これで愛しい恋人に奉仕しているように
見えるかしら?
多少強引なのは承知の上。それでも伏見嬢にNTR、いわゆる寝取られ属性でも
なければ黙って見ては居られないはず。
それはさておき。
私の指が擦る男性器の表面は熱く、堅い。そして、思っていたよりも大きい気が。
指の腹に触れる未知の物体は中身が血液であるとは感触からは思えない。実は中心に
骨でも入っているんだともっともらしく言われたら信じてしまいそうだった。そんな事を
信じてしまいそうになるほど、いかめしく、異性物の器官めいていて、グロテスクだ。
あと、顔を近づけた所為で少し臭う。いつ襲撃されるか分らない環境とこの両手の負傷
では入浴で清潔さを保てというのも無理な話なのでしょうけれども。……手は後で石鹸で
洗うとしても、さっき私コレを舐めるとか言っちゃったんですけどー。お父様のイソジン
を失敬するハメになるのかしらねえ、と考えてゲンナリする。いえ、嘘ではなく。
そのまま指による愛撫を続けてしばし。
U.U(ユー・ツー、ピザが主食。嘘ですけど)乗ってこないわね、作戦失敗? 等と
思い始めた頃になって、彼の腿に置いた手に、微かな重みを感じた。
もう一つの小さな手が重ねられているのだ。
――かかった。
内心にやりとほくそ笑みつつ、顔を上げると、俯いて表情の読めない伏見嬢。何かに
耐えるように、その口はギュッと結ばれている。
その手に手帳は無かった。
どうするのかと思っていると、手帳ではない、掠れた肉声が私に問いかける。
「……お、おまえ、こいつ、す……好きっ、なのっ、はてなっ」
手帳でなければ「はてな」は要らないと思うけれど、まあそれは置いておいて。
「そうね。彼に世界で一番、魅かれているわ」
正確には、彼に世界で一番ドン引きされている、が正しい用法だと。
恋愛方面とは微妙に異なった興味を、であれば一応嘘ではないわね。
けれどそんな補足をする気もなく、必要も無かった。
「取られたく、ない。やだ。でも……」
訥々と、呟く伏見柚々。
私の手に重ねられた小さな手が、震えていた。
理性と良心と嫉妬と独占欲と不安と愛情と欲求と廉恥心とその他大勢。葛藤が伏見嬢を
惑乱させる。
もう一押し。
重ねられた手を返し、下からギュッと握り返す。伏見嬢はビクリと肩を震わせたけれど、
振りほどこうとはしなかった。
その手を握りしめたまま持ち上げ、彼と彼女の中間で止める。
このまま大人しく手を引っ込める事も、欲望のままに掴みにいく事も出来る位置。
「どうするの? 黙って見てるだけなら、彼は私が――」
そう告げられて離された手と、彼のモノ。伏見嬢は二つを見比べて、やがてグッと顔を
上げると震える手を彼の方へと伸ばした。今も私の指がゆるやかにしごき続けている
男性器へと。罪悪感と不安と羞恥心と恥じらいと、そして一抹の興味を隠した伏見嬢の指
が恐る恐る触れようとする。
彼の意識が無いのをいい事に、ここに彼の意思と事実関係を無視した三角関係もどきが
伏見嬢の中で成立しちゃったりなんかしたりして。ああ楽しい。
……まあ後から、つまり事件が解決を迎えて病院に収容されてから、私も事実を誤認
していた事を理解した訳ですけれどもね。まさか別に正妻が居たとは、この時点では夢
にも。
閑話休題。
一度彼への愛撫を止めて、彼のモノと伏見嬢の手をそっと両手で包みこんだ。
別の見方をすれば、ゆゆちゃんのおててに彼の固いのを握らせた、とも言う。
やや小さい柔らかい手が血管の浮いた彼のモノに触れ、僅かながらも撫でさする。
その愛撫を受けて彼の男性器は僅かながら震えた、ような気がした。
「これ、が……熱……」
半ば呆然と呟く伏見嬢。
うんうん、乙女であればきっと裸で彼に抱きしめられて、コレで破瓜を向かえる妄想で
自分を慰めた事があるのよねえ、なんて考えるのは先入観かしら?
まあその辺は強いて確かめるつもりも――
「これで処女膜破られたい?」
――即座に直球投げたりして。だって気になるじゃない。
し、しじょっ!? と隣から奇声が漏れ、手中の小さな手にグッと力が入った。
あららぁと菜種の様な感嘆の声をあげながら彼の寝顔を窺うけれど、起きる気配は
いまだに無い。セーフ、と小さくポツリと呟いて見たりして。
考えるに。
私が彼に悪戯をしただけなら、その後おそらくは比較的大事にはならない。自分が
被害者である限りにおいて、彼は寛容だ。嫌な顔とか悪態とかは散々吐くでしょうけど、
元々そんなものですし。
ただし、こうして伏見柚々嬢を巻き込んで私が何かしたと知れたら、とんでもない
報復を実行される可能性がある。たとえば、この館における私の生存率を極小まで削り
取る何かとかを。
それを知ってて巻き込む私も私よねえ、と暢気に構えてたりする大江湯女だった。マル。
嘘じゃないから困り者。人畜無害以外の何かとはこういうことさ。
まあそれはさておき。
力を抜くことを指示し、それからゆっくりと自らの両手を上下させた。
「う、あ……あ……」
自らの掌から伝わる知らない感覚に、伏見嬢の口から意味を成さない呻きが漏れる。
ゆゆちゃんのおてては私の掌の中。
つまり今、私と伏見嬢の手によって、彼のものは上下にしごかれている事になる。
……気持ちいいのかしら? 意識があったら絶対認めないだろうけれど。
けれど意識の無い今、彼の男性器は私とゆずゆずのおててでしごかれて、燦然と勃起
し続けているのであった。心なしか、最初よりもいきり立っている様な気もする。
他に見たことがないから、これが平均と比べてどうとかは分らないけど。
しかしそんな事はどうでもいい。
意味合いは異なるにしろ、伏見嬢も私も、これが彼のであるからこうして自らの手で
愛撫を加えているのだし。方や愛情と想いを込めて。片や、退屈しのぎと嫌がらせを
込めて。
なんという落差。なんてこと、酷いわ。二人の初めての共同作業は、最初から心を
通わせてなんていなかったのね。確信犯ですけど。
意識が無いとはいえ快楽は快楽なのか、顔色を窺っていると目の端が時折ピクリと震え、
元々正常とは言えない呼吸がやや乱れている。
いいわね、いいわね、ゾクゾクする。もっともっと感じなさい。意識の片鱗でもあれば
絶対に命にかけてでも拒絶するであろう、私、大江湯女の手による悦楽を。きっと伏見嬢
によるのも否定するだろうけれど、そっちは罪悪感からの否定。私のは拒絶反応からの
否定ね。
重なり合わない二人の手と指による、貴方の快楽の為の共同作業。
そのお味はどうかしら。ねえ、意識の無いアナタ?
覚醒していないからこそ拒絶しないで味わう事の出来る、愉悦の味は?
爪の先でほんの少しだけ、その裏側をカリリとむず痒く引っかいてみたりして。
指の先を、指の腹を、掌を、リアクションというヒントの無いままに、見当だけで彼の
モノに這わせていく。まるで蛇がその獲物に巻きつくように。いえ、彼と私の互いに
対する認識からすれば、蛇よりも蜘蛛かしら? 蜘蛛が這うように指を蠢かし、少しでも
見返りの無い官能を彼に味合わせようと淫靡な動作を繰り返す。
伏見嬢の手の上に被せた手はもう引っ込めている。そんな事をしなくても、伏見嬢は
もう懸命に彼の快楽の為に奉仕している。小さい手と細い指を懸命にそぐわない大きな棒
に絡め、その表皮を撫でさするように上下させている。
反応を見極められないので、これが彼にとって気持ち良いのかそれとも痛いだけなのか、
本当の所は分らないのだけれど。
私の指と彼女の指は時折交差し、重なりあい、互いの昂ぶった体温を意識しあいながら
徐々に動きを強めていった。
「あ……」
伏見――ええと、もう伏見さんでいいわよね? 面倒だし――さんの呟きにふと顔を
戻して見れば、彼の屹立した男性器の先端から少しだけ液体が漏れていた。これがきっと、
カウパー氏線液というやつではないかと推測。
……ううん、やはり潤滑液は必要かしら? とはいえこのいわゆる先走り液では足りな
いだろうし。ちょっと考えてみたりする。
ええと、私、最初になんて言ったんだっけ?
思いだしてみる。そうだ『彼の固く勃起した男性器を露にして手でしごいたり舌で
舐めしゃぶったりして、抗えずに白濁液をぶちまける様を眺めつつ手淫して自らの快楽を
貪ってみようかと』だったわよね。じゃあ手っ取り早いのは――
でた結論にため息が漏れた。やっぱりお父様のイソジンは失敬される運命にあったのね。
一旦、彼のものから手を離す。
「……?」
小首を傾げるだけで疑問をぶつけてくる伏見さんににっこりと既に仮面の様になった
笑顔で笑いかけて。
それからおもむろに彼のモノの側面に舌を這わして見た。
……何か、生理的な嫌悪感が少々どころでなく。匂いによるものか、相手によるものか、
それとも味によるものかは不明。でも有言実行を目指して、頑張って舐めましょう。
嘘と言えば嘘。口八丁に栄養の大半を回している私たちのような生き物が常に有言実行
を心がけていたら、あっという間に存在自体が磨り減ってなくなってしまうじゃないの。
まあ今は舐めるんだけど。……あ、二枚舌って物理的にあったらこういう時は便利そう
よね?
これまでなら恐らくはまた驚いたり、おろおろしたりしていただろう伏見さんですが。
既に覚悟を決めていたのか今回はおろおろする事無く、一度だけ唾を飲み込んでから、
私に追従してきました。
ギュッと目を瞑って舌を突き出して、彼の男性器のもう一方の側面に濡れた舌を触れさ
せる伏見ゆゆ。スーパー普通人のわりに思い切りがいいのか、それともずっと前から彼と
こういうイケナイ事をする妄想に耽って自らを慰めていたのか。はたまたもう既に
思考回路はメルト寸前になってるのかも。ハートは万華鏡であり、素直じゃなくても夢の
中なら言えるのである。
ともあれ愛しい男の男性器の中ほどにチュッと口づけて、ほわんと表情を緩ませて両の
頬を抑える伏見さんでした。
うーん。
彼女のファーストキスの相手は彼のおちんちんだった、とかだとそれいったいどこの
調教ゲー? ってレベルのエロさになってしまう。ここはもう、ファーストキスの相手は
おとーさん(幼稚園時)、とかほのぼのとしたエピソードの持ち主である事に
期待するしか。……どうか、初めての口づけの相手はお儀父様(高校二年時)でした、
なんてそのあと絶対キスだけじゃすまされてないエロティカルヒットなエピソード
持ってませんように、と神以外の何かに祈っておきましょう。微妙に嘘じゃないかも。
顔は真っ赤だけれども目をうっすらと開けた伏見さんに分る程度に目配せをして、
それから二人でたっぷりと彼の男性器に舌と唾液を這わせていった。
「ん……」
「ンう……」
ジュルジュルと、液体を塗りたくる音が部屋に響く。
たった今誰かがこの部屋に踏み込んできたら、椅子に座る彼の脚の間に和服と洋服の
二人の美少女が跪き、その男性器を両側からピチャピチャを音を立てて舐め続けている
痴態に遭遇する。
客観的に見れば凄くいやらしい光景ねえ。
彼にとっては正に夢の中の事だし、私にとっては悪戯の延長みたいな事なのだけれど。
猫の舌の様にヤスリになっていたりはしないので肉をこそぎとったりは出来ず、
してみると人間の舌というのは意外と口淫に適した形状になっているのかもしれない。
などと意味の無い思考を交えつつ、先端を軽く口に含んで舌を円く蠢かしてみる。いえ、
猫以外との比較なんかしたことないけど。
私の舌が彼のカリ首をなぞり、伏見さんの舌が裏筋をゆっくりと舐め降ろしていく。
顔を横に倒してその側面に舌を蛇行させると、相方は頂点の鈴口に濃厚なディープキス
を重ねていた。
動悸でも治まらないのか、伏見さんは片手を自らの胸に手を当てて口愛を続けている。
……栄養失調に重ねての心臓バクバクで心不全とか起こさなきゃいいのだけど。
などと思いながらその根元に唇を押し当てて吸い付いた。自然、鼻から流れ込む彼の
男の身体から発する体臭。そして性臭。
自分や伏見さんの唾液を塗す事でそれの元からの男臭い匂いは強さを増していた。
いい香りとは間違っても思わないけれど、何か不思議と鼻の奥にツンと残る刺激的な何か。
それを嗅ぎ続けている内に、ふと気づくと私の脚の間はいつの間にか濡れていた。
どうも私は欲情しているらしかった。
なるほどねえ、とやけにすとんと腑に落ちた。男と女であれば、間に愛とかなくても
セックスしたり子供作ったりは出来る訳だけど。でも、わりと見境ないのね私の身体も。
まさか彼相手に欲情するなんて。
してみると、彼も眠りから覚めても身体が言う事を聞かずに、拒絶しながらも私に
しごかれてびゅくびゅく射精させられちゃったりするのかもしれない。
まあそれはその時のこと。少なくとも現在の相棒、というか共犯者に丸め込んだ伏見嬢
には彼への愛情とかたっぷり詰まってるんでしょうし。
今彼女を突き動かしているのは果たして彼との性交を求める情動か、それとも彼を
気持ちよくしてあげたいという無私の愛か。はたまた単なる私への対抗心かそれとも僅か
ばかり感じる連帯感と共犯者意識か。
何にせよ私の目論んだ以上に彼女は彼への愛撫に没頭していた。
見れば、伏見さんの息は乱れがちで、目も潤んでいる。
あれだけ目の下の隈が広がっているのに、それでもその表情は女の私から見ても
艶っぽかった。
私も今、あんな顔をしているのだろうか。それとも、私は――それでも、張り付ける事
に慣れてしまったいつもの微笑を浮かべているのかしらね。そこの所は既に分らなかった
けれど。
「欲情――してるのね」
舌はたどたどしく蠢かしながら、脚をもじもじとさせている伏見さんに尋ねると、
真っ赤な顔のままでやがてコクッと恥ずかしそうにうなづいた。
可愛い子ね、と素直に思う。
「どうやら、私もそうみたい――」
熱に浮かされた様に告白して、そして私は腿の間に自らの手を差し入れた。
顔を擦り付けつつ変わらず舌で奉仕を繰り返しながら、自らのその部位に触れる。
浴衣の裾を割り、白い腿を外気に晒し、その奥へと指を差し入れ、オトコを受け入れる
べく作られた自らの快楽の源である泉にそっと指先をひたしていく。
ヌルリと熱い蜜を滴らす源泉は容易くその侵入を許し、目の前に屹立する男性器の
紛い物としてその入り口を撫でさする私の人差し指をその奥へ引き込み、溺れさせようと
する。
「ン、ック、ぅ……ン」
心が人間か昆虫もどきかに関わらず、身体はやはりオンナの物で。
欲情した身体で女性器をかき回せば、快楽を堪える声がにじみ出る。
やがてその声が二つに増えて、私は伏見さんが私に倣った事を耳で知った。
控えめに漏れる押し殺した声と、やはり控えめな躊躇いがちな動きで、けれど
どうしようもなく堪えきれずにスカートの裾から差し込まれた伏見さんの手は、緩やかに
動いていた。自らの欲情の中心を苛む切なさに、僅かばかりの慰めを与える為に。
その目は羞恥に泣きそうではあったけれど、それ以外の理由で潤んでもいた。
「は、ぁ……く、フゥン」
自然に上ずった吐息が漏れ、彼の男性器を擽って室内に消えていく。二人分。
口で彼の男性器を舐めて快楽を与え、指で自らの女性器を撫でて悦楽を貪っていく。
自らから溢れ出る蜜を押し留める事が出来ず、脚を伝い、痴毛を伝う愛液が一滴、
二滴と床に落ちるのを敏感に自覚する。それを知りながら指は止まらず、しとどに濡れ
ながら媚肉を割り裂き、その内側を狂おしく愉悦させ続ける。
それはいっそこのまま目の前の椅子を蹴倒して立ち上がり、両腕の激痛で目が覚める
だろうけれど、その両腕が故に身動きが取れない彼の目の前で裾を捲くり上げて、
欲しがって疼く秘唇を曝け出し、そしてそのまま散々舌でなぶってあげた彼の男性器の
上に腰を沈めてしまおうかと思うほど。そんな刹那の快楽に、身を投げ出してしまおうか
と思うほど。
ふふ、そうなったら彼はどんな罵詈雑言で翻意を促そうとし、そして耐え切れずに白濁
を私の中にぶちまけるのかしら。どんな顔で? そして私はどんな愉悦を得るのだろう?
ああ、ゾクゾクする。それを見る為なら破瓜の痛みくらいなんとも無い、とまで
そんな考えに取り付かれる。嘘であれば、よかったのだけれど。
嘘じゃないから、だから今それを押し留めているのは隣の伏見さんの存在。
伏見さんは彼が好き。
私は彼の事は特に好きではない。
そして彼はおそらく、理由は違えどその両方を拒絶するのだろう。
なんて噛み合わない関係な事なのかしら。
しかして今、その本来別個に空回りを続けるはずの歯車が奇妙に連携しているのでした。
「あ、ン、ふぁ……あ」
「……ッ、……ンッ」
二人の少女が眠りこける男のその男性器を無断でしゃぶり続け、そしてその目の前で
手淫を続けている。
有体に言って、どう考えても痴女の所業である。
が、これがまたどういう訳か無性に興奮するのよねえ――
必然的に肩を寄せ合い、身動きも取れないような位置関係。互いの微細な動きも、
体温も、全てが伝わってしまう隠し事の出来ないこの行為。
耳にするのは自ら内からはしたなく漏れる蜜を、立てた膝の間でかき回す淫らな水音。
それにつれて口から漏れる抑えた嬌声。同様に、否、もっと押し殺した伏見さんの喘ぎと、
その指が会陰部をなぞってつむぎ出す愛液の滴る音。それから二人の舌が彼の男性器を
啄ばみ、啜り、舐めしゃぶる音。あとは、目覚めないかとドキドキしながら確認する
彼の寝息。
肺の中はとっくに男の匂いで満たされて、内側から私の身体を焼き苛んでいる。
昂ぶりに突き動かされて、内腿を流れる自らの蜜を掬い取り、その指を舐めて見た。
オンナとしての味が、じんわりと口中に広がって、自らの身体がただの女である事を
思い知らされる。それが、新たな衝動を生んで、オトコの味を確かめるように男性器の
隅々まで舌を這わせてしまう。
ふと悪戯心を起こして、自らの秘芯から掬いあげた蜜を彼の隆々と立った男性器に
滴らせ、そのまま扱く。でこぼこした表面に、浮き出た血管に指を這わせ、まるで蛞蝓
の様に粘液を微細に複雑に大胆にゆっくりと擦り込んで行く。
彼の男性器に塗りたくられた愛液はやがて彼のモノの表面に染み込み、その発する匂い
に密かに私の性臭が混じりこむ。私の、印として。
気に入らない男だけれど、それゆえにこそ「マーキング」してやったという、
鎖につないでペットとしたかのような征服感や、空想上の彼の覚える屈辱感を思うと
それもまた堪らない愉悦の一因となった。
彼のモノとは逆しまに、自らの蜜に濡れた手にも男の匂いが移っている。その残り香を
飲み干す様に、濡れて汚れた掌を舐め取った。先ほどの女としての味ではない。
そこにあるのは、オトコの匂いと交わる欲情したオンナの淫臭。
ああ脳髄がゾクゾクと打ち震えて堪らない。
堪らないから。
「ねえ伏見さん――」
親切にも今の所業の意味を事細かく伏見さんに教えてあげたりして。うふふふ。
もちろん彼と私の互いにひん曲がった感情と関係性に基づく行為とそこから生まれる
捩れた愉悦の正確で詳細な意味を、別の関係の基盤の上に立つ伏見さんが完全に理解する
事は不可能に等しいのだけど。
けれど、対抗心を煽るだけならそれで十分。
彼が別の女の所有物として首輪を嵌められている、という理解だけで。
自分がかねてよりずっと好意を抱いていた男が、つい先ごろ初めて顔を合わせた女に
所有印を付けられている、という事実だけで。
それだけで彼にすがる、彼だけを拠り所としている彼女には、選択肢はもう既に無い。
「……ん……フ、ぅ……」
彼の匂いの混じった息を吐き、愉悦交じりに口の周りを嘗め回すという挑発。
聞いた瞬間目を左右に彷徨わせ、眉を顰めつつ何かを言おうと口を開きかけて、
何も口に出来なかった彼女。それも当然。今彼女が感じている感情を、言葉に出来るほど
彼女は器用ではありえない。
躊躇いは短い。なんとなれば既に渡った川であるから。
賽はもう投げ終えた後。ルビコン川など既にはるか後方に消え去った。
もはや目の前にあるのは共和国ローマの首都、都市ローマをその腕に抱くテヴィレ川
なのですユユウス・カエサル、と知的方向から攻めてみる私。ふふふ、教養が光るわねぇ。
決め台詞は「来た、見た、帰った」……はて、カエサルは観光旅行してたのだったかしら?
もはや意味不明。
そして罪悪感と恥ずかしさを一杯に抱えながら、それでも彼女は自らのスカートの下で
自身をかき乱し、分泌させたはしたない証を指に絡め取る。
手を差し入れたスカートが捲くれ上がり、白い腿が露となった。可愛いショーツが濡れて
変色し、その内側でもぞもぞと秘芯を蠢く指の動きがおぼろげに理解できた。
「……ぁ……ふぁ、あ……ぅ」
観察されている事にも気づかず、真っ赤な顔で何かに耐えるようにギュッと目を閉じた
彼女は自らの秘裂を探り、その指に彼の男性器へと捧げる蜜をかき集める。自らから
絞り取る様にこね回すグチュリといういやらしい音と切ない息遣いだけが静かな室内に
響いて消えた。
喘ぎながら掬い取った滴りをその手に集め、儚げに微笑む伏見さん。
その濡れた手でそっと彼のモノを愛しげに包み、上下に動かし始める。
自らの蜜を潤滑油として、私のマーキングに上書きするように。どんなにはしたなく
淫らな真似をしてでも彼を自分の隣に引きとめて、決して離したくない一途な想いで。
――素直で、一途で、可愛いらしいわねえ。
こんなキレイで人間らしい人間が居るから、自らの歪に自覚のある私達のような
イキモノは素直に人間を名乗れないのだけれど。
けれどそれもいい。そんな生物にイケナイ事を教えていくのも愉悦に変わる。
……私はやっぱり蜘蛛でなくて蛇かしら? 蛇だって昆虫ではないけど長虫ですものね。
懸命にそのものを扱き、そして舌での愛撫も加えていく伏見さんに沿う様に、
私も再び目の前の男性器に舌を這わすことにした。いまや、三人分の性臭の入り混じった
淫猥な物体と化した彼のモノに。
脳髄を痺れさせるその男性器の匂いを肺に充満させながらの、自らを玩具として弄ぶ
自慰。
これまで自分を慰めた事がまったく無い訳じゃないのに。
相手が好きな男だという訳でもないのに。
私は退屈しのぎのつもりだったこの行為に激しく没頭し続けていた。
けれどそれにも終焉はある。
意識の無い彼に、自らの射精を耐える事はできないから。
だからこの遊びは唐突に終わる。それを理解している。
理解したうえで、今は願っている。どうかそれまで彼が起きません様に、と。
神以外の何かに都合のいい事を自覚している願いを掛けながら、私と伏見さんは自らを
慰め、上へ上へと昇り詰めていった。
彼が白濁をぶちまけ、私と伏見さんとが互いの顔にかかったそれを舐めあいながら
意識を跳ばすのはほんの少しだけ先のこと、だった。
一時の退屈しのぎとしては、らしくないほど真剣になってしまった、と少し反省。
嘘ですけどね。
/
「も、やー……かえ……」
「ふふ……あと3回……」
なにやら騒々しくて眼が覚めた。
不思議な夢を見たような気がするのだが、目覚めと共にその記憶は急速に失われていく。
で。
目を見開くと目の前で伏見と湯女がじゃれていた。
というか。
湯女が伏見の手帳を持った片手を高く上げ、伏見が手帳を取り返そうと両手を伸ばして
じたばたしていた。伏見の突進をその額を押さえる事で果たしつつ、アルカイックスマイル
を浮かべる湯女。
おまえはどっかのいじめっ子か。
「何やってんだお前ら」
思わず寝起きの半眼で尋ねる僕だった。
「あら、ようやくお目覚めね」
「お、おお、お、おはよう……」
まったく表情を変えずに誠意の篭らない挨拶を繰り出す湯女と、手帳に手が届かない
ので仕方なく肉声による挨拶で代える伏見。その攻防は今もって続いている。
軽い運動をこなしている所為か、伏見の顔が妙に赤い。
……もう一人は全く顔色変わらんな。
「というか何やってるんだお前。伏見に手帳を返してやれ」
「あら、心外ねぇ。家庭の維持には時には素直になる事も必要なのよパパ」
「誰がパパだ」
湯女は手帳の開いたページを僕に見せた。
周りの伏見の筆跡とは明らかに違う文が一つ書き込まれている。
いわく。
『私のいやらしい身体をたっぷりいぢめてください』 正
…………マテ。
伏見の顔が赤いのは運動でなくて羞恥心の所為かっ。
うわ、しかもご丁寧に『おはようございます』の一つ下に書き込んでやがる。こんな
手帳でうっかり両親や級友や教師に挨拶したら、間違いなく伏見の人生が変わるって。
主に嫌な方向に。
「いいから返してやれ。不必要に人の人生逆ねじ曲げんなっ」
「怒りっぽいわね。カルシウム足りてないんじゃない?」
カルシウムどころかお互いに全ての栄養素が足りてないのをよく承知の上でのたまう
湯女だった。不承不承という感じで返却された手帳をしっかり確保し、ベッドの上で
慌てて消しゴムをかけるゆずゆず。
ちなみに消されたのは文全体ではなく後ろの正の字から棒線三本。
――という事は。
「二回言わせたのかよ!」
「二回言わせたわ」
「二回言わせたのかよ!」
「二回言わないで」
こうして伏見の手帳に使う当ての無い嫌なデッドストックが無駄に残ってしまった。
あとで説得して、破棄させよう。……使用させるんじゃないぞ?
それはさておき。
「で、今度は誰が死んだんだ?」
二度ある事は三度ある。
こいつに起こされた時は二度中二度とも人死にの報告を兼ねて、だった。三度目も
ありえないという状況じゃないし。
「残念ながら、というか幸いな事に本日死人は出ておりません。葬儀日報も空欄です」
「へえ、毎日毎日僕らは葬儀出席を迫られて嫌になっちゃうのかと思ってたけど」
葬儀と言う名の死体鑑賞会。あるいは新参者の死体の粗探しをしにいく会。へっへっへ、
おまえここんところに弾痕あるじゃねえかよ、とか、おいおい兄ちゃん心臓に風穴
開いてんぜ、涼しそうだねぇ? とか。新入りに対する風はどこの世界でも冷たい。
嘘だけど。
流石に死人予備軍の数が減ってくるとおいそれと死体になるのも難しいらしい。
これが就職氷河期というやつである。嘘だけど。
「そうなるまえに喧嘩して外に逃げ込むべきね。出来るなら」
互いの視線が中空で探り合う。
脱出方法について口に出した事は互いに無いけど……必要ないか。
しかしそうすると後の問題は。
「……伏見、僕の額に『肉』とか書かれてないか?」
寝ている間にどんな悪戯をされたか、だった。
この警戒、とぅるとぅる鳴く目覚まし時計に首を絞められた経験のある日本全国の
皆様なら判って頂けると思う。嘘だけど、というかそんなヤツが僕以外に居るかどうかが
かなり疑問ではある。
伏見は起きてたみたいだから、そんな大した事はされてないとは思うけど。
てこてこと近寄ってきて僕の頭をわしっと両手で掴み、真剣な顔で念入りにじっと
確認した上でふるふると首を振ってくれる伏見。いや、そこまで注意深く探して
くれなくてもパッと見で分ると思うぞ額に肉。ひょっとして肉じゃなくて――
「中とも米ともニクともママとも書いてないわ」
容疑者Yさんの信用の欠片もおけない、無罪を主張する証言だった。
一応伏見に確認を取るが、首を縦に振って肯定してくれる。
これで実は額にカエデの葉(=カナダの象徴)を書いたとか言う最低のオチでは
なかろうな。うん、カナディアン的に最悪。嘘でなく。
「そんなレベルの低いお茶目をこの私がすると思って?」
胸を張って断言する湯女。
悪戯なんてしない、とは言わない辺りに欺瞞を感じる言い草だった。
「じゃあどんなレベルの悪戯ならするんだよ」
「そうね――」
部屋の中を軽く見回す湯女。
表情がまったく変わらない辺りが不気味だった。
「たとえば、両腕がへし折れて身動きが取れない私がベッドで寝ていたとしましょう」
「あ?」
「そんな私を起こしに来たはずの天野君は、けれど舌なめずりをしてベッドに近寄って」
「ああ?」
「おもむろに浴衣の裾を捲りあげて下半身を露にした上で脚を大きく開かせて更に指で
割れ目まで押し広げて中の中までとっくりと観察した挙句昂ぶって息の荒くなった顔を
ゆっくりと近づけてくんくんと鼻を鳴らして深呼吸を――」
「するかっ! いったいどこの変質者だっ!」
「いやあ、もう許して! そ、そんなトコ舐めちゃらめぇぇぇぇぇ!」
「話を聞けえええっ!!」
いやんいやんと身体をぐねぐねさせつつ、まったく無表情なのが恐ろしい。
というかこいつが僕にする悪戯の度合いの筈が、いつの間にか僕がこいつに悪戯を
という前提で話されてるじゃないかよ。恐ろしいヤツだな。
そして一通りぐねぐねと踊った後、唐突にげほごほと咳き込んでぜえぜえと肩で息を
していたりする。体力ゲージが既に底辺を割り込んでるのに息継ぎなしに長文トーク
から絶叫して小躍りとかするからだ。生命維持を危険に晒してまでエロトークする馬鹿が
何処に居る。ああ、ここに居るな馬鹿は……僕を鏡に映したような極めつけの馬鹿。
待つことしばし。
ようやく息を整え終え、額の汗を浴衣の袖でぬぐった湯女は、途中で何事も無かった
かのようにさらりと言った。
「――というような悪戯を天野君にしたいと、ユズちーが」
「言うかっ! 伏見を性犯罪者と一緒にするな!」
更に平然と伏見に転化しやがった。
底知れず恐ろしいヤツだな。
「実はすでにしたのかも?」
「しないよ。たとえお前が倒錯した性犯罪者になっても、伏見がそんな事するかっ」
…………………………
…………………………
…………………………?
……なんで、伏見が床に突っ伏して頭抱えて悶絶してるんだろう?
そんな伏見と僕をまったく変わらない張り付いた微笑で眺めつつ、湯女は
お義理のように「嘘ですけど」とくだらない話を締めた。
こうしてまた暇つぶしに事欠く一日が始る。
余談。
「嘘ですけど」というどこかで聞いたモノと類似したフレーズについて尋ねたら
逆にこっちが著作権料を請求された。
さるネズミの国の住人の様に盗作意識が欠如したヤツである。
<了>
後書き
ついカッとなって書いた 湯女ならなんでもよかった 今は反芻している。
嘘だけど。
はい、お読み頂きましてありがとうございました。
おそらくはジャンル違いによりうちに来てくれる少数の読者様の、更に大半を置いてけ
ぼりにした品でありましょうが。
本作は一部のSS書きの間で局所的に大人気、電撃文庫から出ている異色作
『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』の二次創作に該当し、更にその中でも脇役に
当たる伏見柚々と大江湯女にスポットを当てた中途半端な18禁という、どこまでニッチ
なんだという作りの一品です。いえ、いつも通りといえばその通りですが。
時系列としては五巻の終盤辺り。
いや型月系以外の二次を書くのは二回目なのですけれど……そもそも文体とか
似せる気がないとしか思えないなぁこの文章。思いっきり自分まんまですハイ。
では、また。
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