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         いつもの勘違い


                         Jinro



「あっ、すいません。てっきり今日も“いつもの”を御注文かと思いまして」

 彼の言葉にやってきたウェイトレスはそんな台詞を吐いた。
 私は飲んでいた珈琲をソーサーに置くと、ゆっくりとウエイトレスの方を振り向く。
 改めて見てみれば随分可愛らしい子だ、くりくりした瞳とツインテールにした髪が少し
媚を狙いぎみの制服によく似合っている。
 小動物みたいだなと私は思った、彼の隣に座ればお似合いのカップルに見えるだろうな、
とも。

「いやいや、普段同じものしか頼まない僕が悪いんだ。君が気にすることじゃないよ」
「いえ、わたしこそついつい何時もの感覚であの人なら“コレ”ってやっちゃいまして、
お恥ずかしい限りです」

 しかも随分と親しそうだ。
 鼻の下を伸ばしながら彼は少女に向かって笑いかける。
 何故か猛烈に腹が立った。
 このあいだすっぽかした約束のお詫びにと彼から誘ってきたと言うのにこんな態度はな
いだろう。

「ちょっと、私と話してるのに酷いんじゃない?」

 机を指先で叩きながら私は彼へと話しかけた。

「なにがだい?」

 毒気を抜かれるような無邪気な答え。
 絶望的なまでの鈍感さに私は心の底で盛大に溜息をついた。
 いつだって、私の気持ちには気付いてくれないのだから……

「まったく、鈍いんだから……」

 彼は不思議そうに私のこと見詰め、そして唐突に声をあげた。

「ああ、そう言うことか!」

 やっと気付いてくれたのだろうか? そう思った私の思いも裏腹に彼は恐ろしく斜め上
のことを言い出した。 

「だって君言ってたろ?珈琲が好きなんだって」
「はっ!?」

 思わず口から馬鹿みたいな声がでてしまう。
 本当に一体全体何を言い出すのか?
 彼があのウエイトレスに見惚れていたことと、私が珈琲が好きなことと一体どう繋がる
のか?
 いつもの勘違いもそろそろいい加減にして欲しい。

「ちょっと何なんのよ、一体」

 私はどこか不貞腐れた気分で彼に言う。
 まったく彼はいつもこうだ。
 朴念仁なくせに人の良い笑顔をあちこちに振りまいて、何時の間にやら誰かを惚れさせ
ている。
 しかも自分で気が付いていないところがまた性質が悪い。
 果たしてどれほど幼馴染の私をやきもきさせれば気が済むと言うのだろう?

「だから珈琲は苦手だけど、君の好きな奴なら好きになれるかなって」
「な、何言ってるのよ馬鹿っ!?」

 思わず顔が赤くなる、だってそんなのは不意打ちだ、卑怯だ。
 普段は鈍感な癖に、こう言う時に限って私の弱いところを的確に狙ってくる。
 彼はニコニコと笑いながら、でもね紅茶もおいしいんだよ? と私に向かって顔を近づ
けてくる。
 彼の顔を気にしていると何時の間にか彼の手がテーブルの上の私の手を握っていた。

「お待たせいたしましたー」

 慌てて離れる。
 見れば、いつの間にかさっきのウエイトレスが珈琲の入ったカップを手にすぐ隣まで
戻って来ていた。

「早かったね」 
「これしか取り得がありませんからー」

 彼はありがとうと言って手に取ると、私がしたのと同じようにブラックで口元へと持っ
ていく。
 私にあわせてくれているのだろうか、彼は私に向かって笑った。

「それじゃあ飲もうか」
「ま、待って……私も……」

 カップに口をつけようとする彼を引き止めて、顔を真っ赤にしながら頼むのは彼の
“いつもの一杯”
 この思いに気付いて欲しいと願いながら、私はウエイトレスに注文を告げる。

「あ、君ももう一杯頼むんだ?」
「ええ、あなたの好きなものならと思ってね」
 
 その受け答えにますます彼は上機嫌になる。
 その挙句、こんな言葉を口走った。

「此処の紅茶は本当においしいからね、君も彼氏さんがいるなら今度一緒に来るといいよ」

 ああ、本当にわかっちゃいない。
 私は心の中で盛大に溜息をついた。
 彼が私の思いに気付いてくれたように思うのは、やはりただの思い違い。
 私の“いつもの勘違い”

「でも僕は、もう一度君と来たいんだけどね?」

 まったくもう。
 こんな風に期待させるようなことばかり言うから、ついつい私も勘違いしてしまいそう
になるというのに。

「いつも思うんだけど、私なんかと来て楽しい?」

 うん、すごく楽しいよと彼は答えた。
 高鳴る胸を押さえながら、私は心中で溜息を付き。

「だって、僕は君が好きだからね」

 その一言に心臓を打ち抜かれた。




                                                  <了>










  解説


「あっ、すいません。てっきり今日も“いつもの”を御注文かと思いまして」


 ――開始であり掴み、なんとなく状況を想像させつつはっきりしない言い回しでGO




 彼の言葉にやってきたウェイトレスはそんな台詞を吐いた。
 私は飲んでいた珈琲をソーサーに置くと、ゆっくりとウエイトレスの方を振り向く。
 改めて見てみれば随分可愛らしい子だ、くりくりした瞳とツインテールにした髪が少し
媚を狙いぎみの制服によく似合っている。
 小動物みたいだなと私は思った、彼の隣に座ればお似合いのカップルに見えるだろうな、
とも。


 ――状況の説明、先の会話文受けて読者に舞台が喫茶店であることを印象付ける。
    続く会話文が不自然に鳴らないように“彼”について強調




「いやいや、普段同じものしか頼まない僕が悪いんだ。君が気にすることじゃないよ」
「いえ、わたしこそついつい何時もの感覚であの人なら“コレ”ってやっちゃいまして、
お恥ずかしい限りです」

 しかも随分と親しそうだ。
 鼻の下を伸ばしながら彼は少女に向かって笑いかける。
 何故か猛烈に腹が立った。
 このあいだすっぽかした約束のお詫びにと彼から誘ってきたと言うのにこんな態度はな
いだろう。


 ――読者に『バカップルの女性が鈍感男に嫉妬している話?』とミスリードを誘う。
 悩んだが、解説は可能な限りすっきりと纏めてみた




「ちょっと、私と話してるのに酷いんじゃない?」

 机を指先で叩きながら私は彼へと話しかけた。


 ――前の文の補強、以下に女性が嫉妬しているかと強調しつつ二人の会話文へ




「なにがだい?」

 毒気を抜かれるような無邪気な答え。
 絶望的なまでの鈍感さに私は心の底で盛大に溜息をついた。
 いつだって、私の気持ちには気付いてくれないのだから……

「まったく、鈍いんだから……」


  ――“彼”の鈍感さの反復を目指す、此処までで完璧にカップル同士の会話と思い
こませることが目的。




 彼は不思議そうに私のこと見詰め、そして唐突に声をあげた。

「ああ、そう言うことか!」

 やっと気付いてくれたのだろうか? そう思った私の思いも裏腹に彼は恐ろしく斜め上
のことを言い出した。


 ――転、話が斜め上に急展開する。




「だって君言ってたろ?珈琲が好きなんだって」
「はっ!?」

 思わず口から馬鹿みたいな声がでてしまう。
 本当に一体全体何を言い出すのか?
 彼があのウエイトレスに見惚れていたことと、私が珈琲が好きなことと一体どう繋がる
のか?
 いつもの勘違いもそろそろいい加減にして欲しい。


 ――ようするに惚気、こんな彼氏だったらたいへんだろうなーと思ってくれたら正解。
    できるだけいつもの勘違いも〜あたりにたっぷりと彼女の情感を込めてみた。




「ちょっと何なんのよ、一体」

 私はどこか不貞腐れた気分で彼に言う。
 まったく彼はいつもこうだ。
 朴念仁なくせに人の良い笑顔をあちこちに振りまいて、何時の間にやら誰かを惚れさせ
ている。
 しかも自分で気が付いていないところがまた性質が悪い。
 果たしてどれほど幼馴染の私をやきもきさせれば気が済むと言うのだろう?

 
 ――ツンデレのツンを試みて玉砕、あとここで二人の関係が幼馴染だと初めて明かされる。




「だから珈琲は苦手だけど、君の好きな奴なら好きになれるかなって」
「な、何言ってるのよ馬鹿っ!?」

 思わず顔が赤くなる、だってそんなのは不意打ちだ、卑怯だ。
 普段は鈍感な癖に、こう言う時に限って私の弱いところを的確に狙ってくる。
 彼はニコニコと笑いながら、でもね紅茶もおいしいんだよ? と私に向かって顔を近づ
けてくる。
 彼の顔を気にしていると何時の間にか彼の手がテーブルの上の私の手を握っていた。


 ――どう見ても惚気です、本当にありがとう御座いました&“彼女”が動揺している
ことを示す




「お待たせいたしましたー」

 慌てて離れる。
 見れば、いつの間にかさっきのウエイトレスが珈琲の入ったカップを手にすぐ隣まで
戻って来ていた。

「早かったね」 
「これしか取り得がありませんからー」

 彼はありがとうと言って手に取ると、私がしたのと同じようにブラックで口元へと持っ
ていく。
 私にあわせてくれているのだろうか、彼は私に向かって笑った。


 ――このへんはとくに考えなしに書いた、どれほど二人の惚気っぷりが伝わるかが鍵。
    個人的にウエイトレスさんが気に入っていたりする。




「それじゃあ飲もうか」
「ま、待って……私も……」

 カップに口をつけようとする彼を引き止めて、顔を真っ赤にしながら頼むのは彼の
“いつもの一杯”
 この思いに気付いて欲しいと願いながら、私はウエイトレスに注文を告げる。

 ――結、意外なオチを目指して一直線。
    タイトルのいつもの勘違いを絡めて行く
    読者に「おやっ?」と思ってもらいたい部分




「あ、君ももう一杯頼むんだ?」
「ええ、あなたの好きなものならと思ってね」
 
 その受け答えにますます彼は上機嫌になる。
 その挙句、こんな言葉を口走った。

「此処の紅茶は本当においしいからね、君も彼氏さんがいるなら今度一緒に来るといいよ」

 ああ、本当にわかっちゃいない。
 私は心の中で盛大に溜息をついた。
 彼が私の思いに気付いてくれたように思うのは、やはりただの思い違い。
 私の“いつもの勘違い”


 ――オチ、タイトルと絡めて“いつもの勘違い”で二度落とす。
 バカップルの会話と見せかけて、その実片想いの女性と鈍感男の会話でしたとさ。




「でも僕は、もう一度君と来たいんだけどね?」

 まったくもう。
 こんな風に期待させるようなことばかり言うから、ついつい私も勘違いしてしまいそう
になるというのに。

「いつも思うんだけど、私なんかと来て楽しい?」

 うん、すごく楽しいよと彼は答えた。
 高鳴る胸を押さえながら、私は心中で溜息を付き。

「だって、僕は君が好きだからね」

 その一言に心臓を打ち抜かれた。


 ――と、見せかけて片想いだと思い込んでいたツンデレっぽい女の人の空回りで
〆る二段オチ。







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